空胞化症候群の一部の症例には透明帯異常疾患?(論文紹介)

Empty follicle syndrome(EFS: 空胞化症候群:卵胞が育っているのに採卵をしたら卵子が存在しない状態)の最近のシステマティックレビューでは、真性と偽性に分けられ(Stevenson and Lashen, 2008)、真性EFSは、通常卵巣刺激-hCGトリガー(採卵当日のhCG濃度で測定し血中濃度も問題ないことを確認)を行い卵子が回収できない状態、偽性EFSは、採卵方法などのヒューマンエラーや薬剤の使用方法などで卵子が回収できない状態とされています。

真性EFSの原因と考えられる複数の遺伝子変異が報告されています。

≪過去の論文紹介≫

1つ目はLHCGRであり、4つのホモ接合性変異によりhCG結合の受容体活性が損なわれ、EFSが生じることが報告されています(Chen, et al. 2018、Yariz, et al. 2011、Yuan, et al. 2017)。
2つ目はZP遺伝子変異です。ヒト透明帯は、卵子を取り囲むZP1、ZP2、ZP3、ZP4からなる細胞外糖タンパク質マトリックスであり、受精時の精子と卵子の相互作用に重要な役割を果たしてます。ZPの構造的・機能的変化は不妊につながる可能性があり、これまで卵子変性、EFS、または体外受精の失敗を原因とする女性不妊症につながることが明らかになっています。

≪最近の論文紹介≫

①最近の報告:ZP1の異常

Can Dai, et al. Hum Reprod. 2019.DOI: 10.1093/humrep/dez174
EFSと関連する6つの新規ZP1遺伝子変異を同定。卵巣の連続切片を用いた免疫染色の結果、前胞状卵胞では透明帯が正常な構造をしていましたが、卵胞発育とともに徐々に透明帯が菲薄化しました。胞状卵胞も正常な卵丘-卵子複合体の一部が欠損しておりZP1の欠損は卵母細胞の変性、最終的にEFSを引き起こすのではないかと推測されました。
・5人の女性 全員がEFS、卵巣刺激を変えても意味なし 組織学的精査では前胞状卵胞まで透明帯はありましたが、500nmより大きい胞状卵胞では透明帯は欠如し、卵丘―卵子複合体が維持できず変性にいたっていました。

②最近の報告:ZP1、ZP2、ZP3の変異

Zhou Zhou, et al. Hum Genet. 2019. DOI: 10.1007/s00439-019-01990-1
EFS・異常卵子と関連する6家系の7人の患者のZP1、ZP2、ZP3の遺伝子変異を同定。6家系7人の5家系5人はEFSでしたが、1家系2人のみ透明帯を含まない、もしくは薄い卵子が回収され一人は生児を出産しています(新規のホモ接合のZP2変異)。

③最近の報告:ZP1、ZP2の変異

Luo G, et al. J Assist Reprod Genet. 2020. DOI: 10.1007/s10815-020-01926-z
EFS・異常卵子と関連する2家系3人の患者のZP1、ZP2の遺伝子変異を同定。2家系3人の1家系2人はEFSであったが、1家系1人のみ透明帯を含まない、もしくは薄い卵子が回収され凍結胚を保存できています。卵子の回収できた患者はZP2変異でした。

≪私見≫

複数卵胞が通常に発育して採卵に挑んだのに、すべて空胞もしくは変性卵の場合、遺伝子変異が関係する可能性があります。遺伝子変異を調べる方法は臨床現場では確立していませんので、臨床現場でできることがあるとしたら、
①偽性EFSのルールアウトのためトリガーをhCGに切り替えたり、トリガーからの時間を変更したりする
②卵巣刺激を変えてみる
③左記のうえで患者様に状況説明を行い今後の方法を検討する
くらいでしょうか。
今までの報告を見てもZP遺伝子変異の場合、卵子の表現型にもバリエーションがあります。運良く生存卵がとれてきたときの対応を事前にチームとして検討していくことも大事だと考えます。患者様の置かれた状況を説明し、そして現在の医療で出来ること、出来ないことを伝えていくのも医療者としての務めだと感じています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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