ERA後個別化胚移植は今後の初回必須検査になる?(論文紹介)
「ERA検査をいつ行うの?」「内膜のずれている人が一定数いるなら初回のルーチン検査にすればいいんじゃない?」と、患者様よりよく尋ねられます。
それを前向き試験として検証した論文をご紹介します。この論文はERA検査を行っている会社が主導となっておりますので、すこし論調はERAびいきになっているなと思って読んでもいいのかもしれません。ただ、私もERAは画期的な検査だと思っていますし、彼らがERA検査の良さを報告してくれることは、患者様を含めて、私たちが治療を行う上での選択肢の幅を広げてくれます。
Carlos Simónら.Reprod Biomed Online. 2020 DOI: 10.1016/j.rbmo.2020.06.002
《論文紹介》
ERAを用いた個別化胚移植(pET: pはpersonalizedの略です)の臨床成績は凍結融解胚移植や新鮮胚移植とは異なるかどうかを調べるために行われた前向き試験です。初回、体外受精を受ける37歳以下の患者458人(世界16の体外受精施設)がERAによるpET、凍結融解胚移植、新鮮胚移植のいずれかに無作為に割り付け臨床結果を調査しました。ITT解析(結果はどうあれ初めに割り付けた患者たちの結果)による臨床成績は同等でしたが、累積妊娠率はpET群(93.6%)が凍結融解胚移植群(79.7%)および新鮮胚移植群(80.7%)と比較して有意に高くなりました。
プロトコール分析(割付通りおこなった患者の結果)では、初回の胚移植による出生率はpETで56.2%、凍結融解胚移植で42.4%(P = 0.09)、新鮮胚移植群で45.7%(P = 0.17)。12ヵ月後の累積出生率は、pET群で71.2%、凍結融解胚移植群で55.4%(P = 0.04)、新鮮胚移植群で48.9%(P = 0.003)。初回胚移植時の妊娠率は72.5%(pET)、54.3%(凍結融解胚移植、P = 0.01)、58.5%(新鮮胚移植、P = 0.05)。初回胚移植時の着床率は、それぞれ57.3%(pET)、43.2%(凍結融解胚移植、P = 0.03)、38.6%(新鮮胚移植、P = 0.004)。産科転帰、分娩の種類、新生児転帰はすべての群で同様でした。この臨床研究は前向き研究のため、これくらいの結果がでるだろうと想定して症例数をきめて開始します。当初 30%程度の患者が割付から脱落するだろうとして症例数をきめたのですが、実際は50%の患者が脱落しました。しかし、プロトコール分析では、凍結融解胚移植・新鮮胚移植群と比較して pET の妊娠率、着床率、累積出生率が統計学的に有意に改善したことが示されました。胚移植前に ERA 検査を用いた pET の有用性が示唆されています。
《私見》
対象となった患者様は女性年齢33歳前後、採卵で10個前後卵が回収できる方です。にもかかわらず初回でERAを行なったほうが、「妊娠までの期間が短くなる」「1回の採卵あたりの出産率」が上がるという報告です。ERA検査を行うと通常の胚移植に比べて胚移植を行うのが2か月近く遅れます。また費用もお薬代も含めると15-20万程度多くかかりますので、この報告をみても患者様が強く望まない限り初回にERA検査を行おうとは思いません。ただ、色々な環境の患者様がいらっしゃいますので適切な情報提供そして選択を提示できるようにしていきたいと思います。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。