慢性子宮内膜炎とERA®結果は関係する?(論文紹介)
ERA検査の結果は間違った解釈をすると、永遠と間違った胚移植時間に胚移植することになり、再現性を含めて慎重に行うことが必要だと私自身も考えています。
ただ、本検査を行っているIgenomixによると大きな体重変化等がない限り3年間は再現性がある結果だと公表されておりますので、再現性が起きづらい可能性を秘めた論文が出てこないかなと思っていたところです。慢性子宮内膜炎とERA結果を示した論文をご紹介いたします。
Keiji Kurodaら. Immun Inflamm Dis. 2020. DOI: 10.1002/iid3.354
≪論文紹介≫
単施設でおこなわれた後方視的研究です。2018年6月から2020年2月まで子宮内膜サンプリングを受けた101名の不妊女性のうち、ERA検査と慢性子宮内膜炎精査のためのCD138免疫組織染色を実施した88人を対象としました。募被験者は以下の3群に分けました。
①事前にCD138免疫組織染色を実施し慢性子宮内膜炎なしの33例(非慢性子宮内膜炎群)
②ERA検査時に未治療の慢性子宮内膜炎があった19例(慢性子宮内膜炎群)
③事前にCD138免疫組織染色を実施し慢性子宮内膜炎を認め治療後にERA検査実施した36例(慢性子宮内膜炎治癒群)
慢性子宮内膜炎の診断は、ランダムに10部位を選択し、400倍の倍率で視野あたり5個以上のCD138陽性形質細胞が存在することと定義しました。
結果:
①非慢性子宮内膜炎群、②慢性子宮内膜炎群、③慢性子宮内膜炎治癒群では、CD138陽性細胞数はそれぞれ0.7±1.0、28.5±30.4、1.3±1.3でした(p<0.001)。ERA検査にて「Receptive」の割合は①非慢性子宮内膜炎群では57.6%(19名)、③慢性子宮内膜炎治癒群では50.0%(18名)でしたが、②慢性子宮内膜炎群では15.8%(3名)にとどまり、他の2つの群に比べて有意に低い結果となりました(p=0.009)。
①非慢性子宮内膜炎群、②慢性子宮内膜炎群、③慢性子宮内膜炎治癒群でERA検査後の初回の個別化胚移植の臨床妊娠率は、それぞれ77.8%(21/27)、22.2%(4/18)、51.7%(15/29)でした(p<0.001)。慢性子宮内膜炎の存在は個々のWOI(ERA結果)に影響を及ぼし、胚内膜非同期を引き起こしている可能性が示唆されます。ERA検査の前に慢性子宮内膜炎精査は実施することを推奨する結果となりました。
≪私見≫
私たちも臨床で論文の結果と同じ印象を持っています。
ERA検査がここまで普及する前には内膜組織の病理診断により着床時期の推定を行っていました。私たちはERA検査前より内膜組織診検査を実施しており、そこからERA検査に移行した経緯があります。以前より遺伝子発現のみで確認するERA検査は再現性を大事にする観点から間違った解釈をする可能性を考えていたので当院では下記の対策をとっています。
①ERA検査時には必ず、組織学的病理検査(HE染色とCD138免疫染色)を前例実施する(ERA検査費用に組織学的病理検査費用を含めております)。
②ERA検査前には子宮ファイバー検査はできるかぎり実施するように心がける。
③ERA検査結果が疑わしい場合は再検査を検討する。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。