正常胚をERA調整してもどしたらどの程度妊娠する?(論文紹介)
「ERA検査をして着床前診断で正常胚を戻すと妊娠率が高いと思っているなら何故最初からしないんですか?最初から選択肢として提示してほしい」という声を多く耳にします。もちろん、これ全て解決するならお勧めするのですが、日本では2020年7月現在、着床前診断は一部の認定施設での反復不成功・不育症患者の臨床研究に限られていますし、「費用対効果」や「妊娠までの期間を短縮する」という観点から初回から両方行う施設は少ないと思います。正常胚のERA調整胚移植の成績は100%になるんでしょうか。今唯一報告がある論文を紹介します。
2014年から2017年の間にERA検査を受けた88例の患者を対象に後方視的に検討し、標準的なプロトコールを用いて凍結胚移植(FET)を受けた患者群と、ERA検査調整プロトコールに従って個別化胚移植(pET)を受けた患者群の着床・妊娠・分娩成績を比較しました。
結果:過去に1回以上の正常胚を移植し着床しなかった患者のうち、22.5%はERAで内膜のずれが診断されました。個別化胚移植後の着床率と妊娠継続率は、統計的には有意ではありませんでした。しかし、個別化胚移植なしの患者と比較して高いことが示されています。(着床率:73.7% vs. 54.2%、妊娠継続率:63.2% vs. 41.7%)。正常胚を移植して着床しなかった患者の中には、内膜のずれがある患者が一定数あり、ERA調整個別化胚移植を行うことで妊娠率改善に寄与する可能性があります。今回は症例数が少なかったため、統計的に本当に意味があるかどうかは、より大きな無作為化試験が必要です。
Tan J ら. J Assist Reprod Genet. 2018 ;35(4):683-692.
≪私見≫
この論文は皆が知りたい正常胚のERA調整胚移植での成績が報告されたはじめての論文ですが、有意差がありません。(サマリに有意差がないけれど高い傾向にあると書かれてありますし、実際そうなんだろうとおもいますが…)筆者らも本文中に何度も、比較する症例数が足りなかったので有意差がつかなかったと書いています。
論文を投稿するときに他の人に先に報告されてしまうと新規性がなくなってしまうので早い段階で投稿したのか、もしくは臨床でのデータなのでこれ以上症例を集めるのが難しかったのかどうかはわかりません。私自身、正常胚のERA調整胚移植はERA検査をしないより妊娠までの期間は短縮するだろうと思っていますが、何よりこの論文でショックだったのは正常胚のERA調整胚移植で12週までの妊娠継続率が64.7%(反復着床不全にかぎると58.3%)しか上がらなかった点です。もちろん着床前診断での胚のダメージもあるでしょうし、着床不全のその他の介入検査を行っているかどうか不明ですが、100%に至らなくても80-90%位はいかないかなとおもっていたので、すこし残念な気持ちがしました。この結果から「ERA検査をして着床前診断で正常胚を戻すと妊娠率が高いと思っているなら何故最初からしないんですか?最初から選択肢として提示してほしい」に関しては現状では時期尚早なのではないかな?と私自身は感じています。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。