調整前総運動精子数別の人工授精成績は?(論文紹介)

人工授精は、機能性不妊患者と男性不妊患者が対象となります。では、男性不妊患者の精液所見がどの程度まで人工授精に期待をもっていいのでしょうか。人工授精での妊娠率を担保するための調整前総運動精子数は500-1000万以上が妥当とする選考論文があるなか、調整前総運動精子数が1000万未満は体外受精を検討すべきという考え方もあります。調整前総運動精子数が1000万未満の場合、どの程度の数値まで人工授精での妊娠に期待をもっていいのでしょうか。
母体年齢、AMH、卵巣刺激法、不妊診断に基づいて、調整前総運動精子数が臨床妊娠率および生児獲得率にどのように関連するかを調べた報告をご紹介します。

≪ポイント≫

調整前総運動精子数200万未満では妊娠症例がなく、2000万以上で妊娠成績が安定しました。200-1000万の間では調整前総運動精子数で妊娠成績に差を認めませんでした。調整前総運動精子数200万以上あれば1000万未満でも、少しは人工授精での妊娠に期待してもよいかもしれません。

≪論文紹介≫

Catherine E Gordon, et al.  J Assist Reprod Genet. 2022 Nov 7.  doi: 10.1007/s10815-022-02636-4.

2015/5から2019/9まで、2つの生殖医療施設において初回の人工授精を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。調整前の総運動精子数、母体年齢、AMH、卵巣刺激方法、不妊症診断によって層別化し、評価項目として、妊娠継続率、副次評価項目として生児獲得率と流産としました。
結果:
1,154周期において臨床妊娠162周期(14.0%)であった。妊娠に至った大半の症例は、調整前総運動精子数が2000万以上でした。調整前総運動精子数2000万以上と比較して、妊娠症例がなかった調整前総運動精子数200万未満を除く低値調整前総運動精子数群では、臨床妊娠率および生児獲得率に差は認めませんでした。調整前総運動精子数で層別した場合、女性年齢が若く、卵巣予備能が高いほど、妊娠率および生児獲得率が高くなりました。卵巣刺激の違いを考慮しても、妊娠率および生児獲得率に差を認めませんでした。

≪私見≫

当院でも精液所見から人工授精成績を説明するようにしています。人工授精を実施するかどうかを調整前精液所見で基準を明確にすることで、カップルで今後の治療計画をどのようにたてていくかクリアになっていくかと思います。
私たちは調整前総運動精子数 200万未満は人工授精中止もしくはステップアップを検討、200-1000万は人工授精1-3回目安で体外受精を検討することを前提に患者様に応じて対応しているのが現状です。過去のブログも参考にしてみてくださいね。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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亀田IVFクリニック幕張