父親の年齢は人工授精に悪影響を及ぼさない(論文紹介)

2018年度に当院で勤務されていた東京医科歯科大学産婦人科 辰巳嵩征先生の以前の勤務先である成育医療センターでの人工授精の報告をご紹介させていただきたいと思います。
父親年齢が人工授精の妊娠成績および精子パラメータに及ぼす影響を評価しています。成育医療センターで2012年4月から2016年5月までの間に40歳未満の女性を対象とした1576回の人工授精サイクルを後向視的に解析しています。男性の平均年齢は、妊娠した群と妊娠しなかった群を比較すると妊娠した群が有意に低く(38.0歳 vs 39.1歳;P < 0.001)、出産群でも同様の傾向がみられました。様々な因子で調整を行うと女性年齢は妊娠率に影響を与える唯一の因子であり、男性年齢は影響を及ぼしませんでした(夫婦の年齢は交絡する為)。また父親年齢は精子パラメータに影響を与えませんでした。
Reprod Med Biol. 2018 DOI: 10.1002/rmb2.12222.

    妊娠率 分娩率
女性年齢 34歳以下 9% 7.40%
35-37歳 9.70% 7.40%
38-40歳 4.70% 3.40%
女性喫煙歴 あり 8.20% 6.20%
なし 6.80% 5.20%
不明 11.10% 9.70%
男性年齢 34歳以下 9.20% 7.80%
35-37歳 12.90% 10.10%
38-40歳 5.30% 3.80%
男性喫煙歴 あり 7.60% 5.70%
なし 6.30% 5.00%
不明 11.20% 8.60%
刺激方法 自然 6.80% 5.00%
クロミッド 7.40% 5.80%
HMG 7.90% 7.00%
クロミッド+HMG 4.00% 4.00%
その他 8.30% 0%

論文より改変

≪私見≫

私たちのデータでも男性年齢に人工授精の妊娠率は依存しません。(女性の年齢を39歳以下とし男性年齢によって妊娠率を測定:35歳未満:6.7%、 35-39歳:8.1% 、40-44歳:7.0% 、45-50歳:6.1%、50-55歳:6.1%)

海外の論文では人工授精の成績に寄与するのは「女性の年齢、正常の卵巣機能、二個以上の排卵数、子宮内膜厚(10~11mm)、進行性の運動性精子の数(100万匹以上)」とあります(Fertil Steril. 2014 DOI: 10.1016/j.fertnstert.2014.01.009)。
私も現段階では人工授精の成績は「女性の年齢が関係し一定の子宮内膜の厚みがあった方が良い、男性側で影響するのは年齢ではなく精液所見のみです」とお伝えするのが良いかと考えています。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。