人工授精は自宅採精/院内採精?(当院のデータをふまえて)
精液検査は脱水や温度により質が変化するため、採取後1時間以内に検査をはじめることが望ましいとされています。(WHOラボマニュアル2010)
精子は弱い細胞ですから外からのストレスに弱い側面もあります。例えば、冬場に 0°C以下になる地域では低温環境に精子を置いておくことにより運動率の低下がみられたりすることは報告されていますので施設の地域による違いも考慮しなくてはいけないと思っています。
自宅採精/院内採精が人工授精の成績に影響するかという議論が 2004年から2008年にかけて複数回海外の論文でもされていますが、後半の論文では差がないという結論に至っています。
YalcinYavasら https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2004.04.061
Gyun JeeSongら https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2007.01.051
新型コロナウィルス蔓延下による感染管理の上でも自宅採精がよいと感じているご夫妻も多くいらっしゃると思いますので、人工授精での自宅採精・院内採精での成績差を改めて出してみました。当院では自宅採精の場合、3時間以内の来院をお願いしておりますが、その範囲では成績に差がありませんでした。これらから、人工授精に関しては成績が下がるかもしれないからクリニックにいって採精しようとは思わなくても大丈夫そうです。
当院では現在のところ、様々なご家庭の事情もあると思いますので院内採精も継続しています。
表:亀田IVFクリニック幕張 2017年1月から2020年3月までの女性年齢39歳以下の人工授精の妊娠率の比較です。
院内採精 | 自宅採精(持参) | |
妻平均年齢(歳) | 33.7±3.3 | 34.1±3.2 |
夫平均年齢(歳) | 35.5±4.9 | 36.1±4.7 |
症例数 | 1447 | 686 |
妊娠数 | 105 | 52 |
妊娠率 | 7.3% | 7.6% |
前進運動率(調整前) | 37.30% | 37.10% |
前進運動率(調整後) | 83.10% | 78.90% |
総運動精子数(調整前) | 63.7×106 | 58.9×106 |
総運動精子数(調整後) | 8.12×106 | 6.76×106 |
ホームページのよくある質問に「人工授精」を追加しました。参考になさってください。
https://medical.kameda.com/ivf/contact/faq/index.html
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。