≪先進医療≫タイムラプスインキュベーターの今後の運用(2022年3月現在)

体外受精の臨床現場において、2008年頃からタイムラプスインキュベーターによる胚観察が行われ始め、1日1回程度の形態学的観察より正確な胚の評価が可能であることが明らかになっています。一番のメリットは、胚をインキュベーターから取り出さずに評価できることにより胚評価が細かくできるだけではなく胚へのダメージも少なくなるとされています。胚評価する項目が増えるメリット、胚へのダメージを最小限に抑えるとインキュベーターとしての有効性から、通常観察にくらべて妊娠率が向上するという報告もあります。

生殖医療ガイドラインでも以下の記載となっています。

  • 胚発育を継続的にモニターすることで多くの形態学的な胚の情報を取得できる(推奨度B)
  • タイムラプスインキュベーターによる胚の培養環境の改善と多くの形態学的な胚の情報に基づく高品質の胚の選択の双方により、体外受精による妊娠率、出生率が改善する(推奨度C)

タイムラプスインキュベーターで観察しなくても、妊娠する胚は妊娠するという考えはもっともですが、うまくいかない場合、なぜ上手くいかないかを情報収集する意味ではタイムラプスインキュベーターで観察をしているのとしていないのとでは患者様に説明できる内容に雲泥の差がでると思っています。
当院では、開院時より全症例タイムラプスインキュベーターでの培養をおこなって参りました。先進医療となると患者負担も増えるため、今後は適宜ご提案させていただく予定です。異常受精の有無、PN出現・消退時間、細胞分裂様式、多核、割球間のサイズ、胚盤胞の細胞数、卵割に要する時間などの形態学的データを記録するとともに、さまざまなスコアリングを先進医療で選択された患者様には提供し胚培養作業の効率化と標準化、培養成績の向上、着床率・生産率の向上に努めていきます。

当院では7000胚以上で受精卵のAIスコア(iDAScore)での解析を済ませており、移植回数で保険適用の回数が決定する患者様に対して、どこまで移植可能胚として提供するか通常の形態学的評価方法とあわせて提供する予定です。下記の表に示すように女性年齢があがるともに評価がよい胚が少なくなりますし、女性年齢別にみるiDAScore別の妊娠継続率(39歳以下、単一胚盤胞移植:移植可能胚での四分位別に比較検討)をみても年齢別に解釈が異なってきますから、若年女性と高齢女性で一定の凍結基準をもうけることは難しいと判断しています。だからこそ、様々な角度からの評価法が大事になってくると考えています。

女性年齢別の受精卵のAIスコア分布

女性年齢別にみるiDAScore別の妊娠継続率(39歳以下、単一胚盤胞移植)

~タイムラプスインキュベーターに関する過去の関連ブログ~

タイムラプスインキュベーターについて
妊娠継続の形態・動態予測モデル(KIDScore™)の妊娠予測は有用?
タイムラプスでのアノテーションを用いた胚選択は従来の形態評価を超えない?
タイムラプスのAI scoringどこまで参考にする?(はじめに)
タイムラプスのAI scoringどこまで参考にする?(iDA scoreの世界データ)
タイムラプスのAI scoringどこまで参考にする?(iDA scoreの国内データ)
現在のタイムラプスイメージング評価基準は正常核型胚の流産を予見できる?

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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亀田IVFクリニック幕張