タイムラプスのAI scoringどこまで参考にする?(はじめに)

体外受精における胚選択とは,同一患者内で良好な胚から妊娠に至らないと判断する胚まで順位づけをすることです。今後、どこまで患者様に胚移植をするか、移植前提に凍結するかの判断を医療者に委ねられます。
現行までの場合だと、受精確認、分割の程度、胚盤胞のグレードなど軸に胚選択を行われていました。少し前より分割の時間軸や特殊分割の割合などでも胚選択を行うことが増えてきましたが、培養士の経験を含めて客観データといえど主観が入ることが多く、施設間の評価のばらつきは否めない部分がありました。

体外受精の保険適用では胚移植回数によって保険回数が定められています。
どこまで凍結するかは、患者様にとっては費用対効果の観点・生命倫理の観点からすごく重要な判断となってきます。タイムラプスインキュベータが先進医療に加わりそうですが、その際に胚選択に活用できそうな指標としてAI scoringがあります。
まだまだ評価は異なりますが、胚選択においては無限の可能性を秘めています。胚のAI scoringの解析ツールがついたタイムラプスインキュベータを導入することにより重要なパフォーマンス指標を自動的に抽出・分析することで,臨床プロセスの最適化と標準化に役立つ可能性があります。

メリットとして、生殖医療者側としては、臨床現場におけるワークフローが改善され、手動評価に費やす時間が短縮され、患者様に説明する判断指標が増えることです。
デメリットとして、胚のAI scoringの解析ツールがついたタイムラプスインキュベータが高額であり、ある一定件数こなせる施設でしか導入が現実的ではないこと、AI scoringが何をもってscoreをつけているか分からないため、患者様に現在までの評価とAI scoringのばらつきがあった場合には説明しづらいことかなと考えています。

AI学習には開発にいたる前のデータセットをトレーニングセット,検証セット,テストセットに分割する方法について、推奨事項を定義づけしたり、データセットの成功例・失敗例のバランスをとったりすることは、実際の臨床現場では非現実的です。

遠くない未来に、現在の胚評価の指標からAI scoringに変わると私自身は考えています。ただ、様々な懸念材料があります。胚評価の結果は妊娠・出産であることが多いのですが、新鮮胚移植か凍結融解胚移植かによって異なりますし、年齢バイアスや子宮側の異常など様々な交絡因子が入ってきます。交絡因子を除外したモデルを考えていくと、着床前診断を実施し正常胚とわかり分娩に至った胚と正常胚で分娩に至らなかった胚、異常胚を学習させてスコアリングをさせることが一番だと考えます。またAI scoreは一定頻度でアップデートされるべきで、過去のバージョンで行ったスコアとの整合性がなくなってしまう危険性もあります。
ただ、そのようなことを怖がって、googleやmac製品を使用しているかというと気にせず使っていますよね。だからこそ、現行までの評価方法を軸に世界のコンセンサスが追い着くまでAI scoringは参考指標の一つとして活用すべきであり、忌み嫌うものではないと考えています。

今後、AIモデルの性能を臨床生殖医療施設で検証し改善点を明らかにしていくこと、どのように臨床現場に順応させていくのがよいかを日々考えながら対応していく必要があるかと思います。

Mikkel Fly Kragh, et al. J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02254-6

文責:川井清考(院長)

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亀田IVFクリニック幕張