タイムラプスでのアノテーションを用いた胚選択は従来の形態評価を超えない?(論文紹介)
Vitrolife社が提供するタイムラプスアノテーションを含んだ評価スコアであるKIDScore™ D5は国内では使用しているクリニックが複数あります。
加藤らによる報告(2021)で、KIDScore™ D5と母体年齢、妊娠・出産成績との関係が示され、高齢(40歳以上)の患者に対してKIDScore™ D5予測の有効性が示されています。ただし、レトロスペクティブな評価であり、現在まで胚の分割時間(アノテーション)を加えた胚評価のアルゴリズムは従来の胚評価と比較した前向き研究は多くありません。比較的大規模な前向き研究の報告がでてきたのでご報告させていただきます。
≪論文紹介≫
Aisling Ahlström, et al. Hum Reprod. 2022. DOI: 10.1093/humrep/deac020
2018年から2021年にかけて、北欧のIVFクリニック10施設776名女性(タイムラプス群:387例、従来形態評価群:389例)に対して新鮮胚移植で移植する際に従来の形態評価とアノテーションを加えたタイムラプスモニタリングでの胚評価による妊娠率の違いを明らかにするために前向き多施設共同無作為化対照試験を実施しました。
5日目に良質胚盤胞を2個以上発育した患者を、コンピュータ無作為化プログラムにより、形態学のみで単一胚盤胞を移植用に選択する対照群と、タイムラプスのアノテーションスコアにより最終選択を決定する介入群のいずれかに1:1の割合で割付けました。胚盤胞を評価する胚培養士は盲検化され、医師と患者は妊娠結果が判明するまで盲検化されました。
評価項目は新鮮周期での単一胚移植の妊娠成績としました。
5日目良好胚盤胞の定義はGardner分類で3BB以上としました。タイムラプスアノテーションスコアはVitrolife社のKIDScore™ D5(t2、t3、t4、t5 、tSB、ICM、TEスコアでスコアリング)を選択しました。
結果:
タイムラプス群の継続妊娠率は47.4%(175/369)、対照群では48.1%(181/376)であり、両群間に差は認められませんでした(平均差-0.7%、95% CI -8.2、6.7、P = 0.90)。妊娠率(60.2% vs 59.0%、平均差1.1%、95%CI -6.2、8.4、P = 0.81)流産率(21.2% vs 18.5%、平均差2.7%、95%CI -5.2、10.6、P = 0.55)も差を認めませんでした。サブグループ解析の結果,患者背景および治療方法は影響を及ぼさないことが示されました。
≪私見≫
今回のRCTでは胚の分割時間(アノテーション)を加えた胚評価のアルゴリズムは従来の胚評価では新鮮胚移植での妊娠継続率・妊娠率・流産率には差がないことがわかりました。過去の報告でもパワー不足ではありますが、差がないとする前向き報告が2本(Goodman LR, et al. Fertil Steril 2016、Kaser DJ, et al. Hum Reprod 2017)、タイムラプスモニタリングがよいとする報告が1本(Rubio I, et al. Fertil Steril 2014)あります。ただ、タイムラプスモニタリングがよいとした報告では、タイムラプス評価胚はタイムラプスインキュベーター、従来胚は通常のインキュベーターとしていたので、一定温度、ガス組成で培養できるタイムラプスインキュベーターの方が胚にとってよかったのではないか?という声もあがっています(私も同意見です)。
アノテーションをつけるのは時間がかかりますので、差がないならつける必要がないのでは?というのがクリニック側の意見だと思います。ただ、今後AIスコアリングが広がっていく中、従来の形態評価に加え判断軸としてアノテーションに対する理解をふかめていくのは、患者様ご夫妻の赤ちゃんを委ねられる生殖医療者として努力を惜しむべきところではないと思っています。
文責:川井清考(院長)
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