着床前検査は周産期予後に影響を与える?(論文紹介)
着床前検査はtrophectoderm生検を行うので生児に影響がないかどうか懸念されています。当院のブログ、着床前検査は妊娠時のHCGの低下や周産期予後に影響を与えるの?でも紹介を致しまたが、周産期予後に差がないという報告、妊娠高血圧症候群・子癇前症が増えるという報告と意見が分かれています。着床前検査後の単胎妊娠が、体外受精の単胎妊娠よりも周産期合併症が増えるかどうかについて、傾向スコアマッチングを用いて比較した報告をご紹介いたします。
≪論文紹介≫
Wei Zheng,et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.12.020
2017年1月から2020年11月までに凍結融解胚盤胞移植による着床前検査(n = 232)および体外受精妊娠(n = 2,829)に起因する単胎生産を対象としたレトロスペクティブ・コホート研究です。複数のベースライン共変数を用いて傾向スコアマッチングを行い、着床前検査後の単胎妊娠214例と体外受精の単胎妊娠617例をマッチングさせました。評価項目は妊娠高血圧症候群とし、母体と新生児の健康に関連する様々な周産期予後も検討しました。
結果:
体外受精単胎妊娠と比較して、着床前検査後、単胎妊娠は妊娠高血圧症候群のリスクが有意に高くなりました(調整オッズ比、2.58;95%CI、1.32、5.05)。マッチドサンプルでは、妊娠高血圧症候群のリスクは、着床前検査後単胎妊娠の方が体外受精単胎妊娠よりも依然として高い結果となりました(オッズ比、2.33;95%CI、1.04、5.22)。その他の周産期予後については、両群間に統計的な差は認められませんでした。
≪私見≫
以前より妊娠高血圧症候群のリスクは、着床前診断後に増えるのではないかという意見がありましたが、体外受精単胎妊娠と比較して、着床前検査後単胎妊娠は妊娠高血圧症候群のリスクが有意に高くなりました。妊娠高血圧症候群は凍結融解胚移植で増えることが報告されています。着床前診断では凍結融解胚移植が必須となるため、凍結融解胚移植を行うため妊娠高血圧症候群が増えているだけではないか?という着床前検査が妊娠高血圧症候群の原因でないとする考えもあります。
今回の報告は傾向スコアマッチングを行い凍結融解胚移植の黄体補充の方法もあわせていますので、今まで以上にtrophectoderm生検により胎盤形成に影響を与え、妊娠高血圧症候群に影響を与えている可能性を問題視する報告となっています。ただし、今回の研究では胚のグレードは、凍結時期以外は補正されておらずTEなどの状況を補正すると、どのような結果になるかは分かりません。
文責:川井清考(院長)
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