妊娠継続の形態・動態予測モデル(KIDScore™)の妊娠予測は有用?(論文紹介)

KIDScore™ Day 5 model, version 3 は、胚移植後の胎児心拍予測のための一般的な形態・動態予測モデル(Vitrolife, Sweden)で、様々なクリニックでの大規模臨床データに基づいて開発されたものである。単一胚盤胞凍結融解移植周期の母体年齢層におけるKIDScore™ Day 5 modelの妊娠・出産予測能力を解析することを目的としています。

≪論文紹介≫

Keiichi Kato, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2021. DOI: 10.1186/s12958-021-00767-4

2018年9月から2020年4月までに2486の初回単一胚盤胞凍結融解移植周期をレトロスペクティブに分析しました。胎児心拍陽性と生児出生は、母体年齢基準(35歳未満、35~37歳、38~40歳、41~42歳、43歳以上)で層別化しました。各年齢群で予測モデル性能をAUCにて算出しました。
結果:
すべての年齢群において,胎児心拍陽性率はKIDScoreの低下とともに低下しました(P < 0.05)。逆に、母体年齢が上がるに連れてAUCは増加しました。35歳未満のAUC(0.589)は41-42歳(0.673)および43歳以上(0.737)のAUCよりそれぞれ有意に低くなりました(P<0.05)。すべての年齢層で,生児出生率はKIDScoreの低下とともに低下しました(P < 0.05).逆に,AUCは母体年齢が高くなるに連れて増加した.43歳以上のAUC(0.768)は他の年齢層のAUCより有意に高くなりました(P < 0.05; 35歳未満=0.596,35~37歳=0.640,38~40歳=0.646,41~42歳=0.679).

≪私見≫

KIDScoreは高齢女性のほうが明らかに妊娠・出産予測に顕著ですね。確かに不妊原因が卵子の質が主なわけですから、そこから出てくるパラメーター結果に強く依存するのは当然といえば当然ですね。タイムラプス培養では胚の分割速度やパターンを正確に評価することができます。前核の消失時期(tPNf)、2細胞分割時期(t2)、4細胞分割時期(t4)、胚盤胞形成時期(tB)などが妊娠指標となることが報告されていますし、ヒト胚分割パターンの特徴であるdirect cleavage (Rubio I, et al. Fertil Steril. 2012),reverse cleavage (Desai N, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2014),割球movement( Ezoe K, et al. Reprod BioMed Online. 2019. Ohata K, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2019),胚盤胞崩壊(Marcos J, et al. Hum Reprod. 2015. Bodri D, et al. Fertil Steril. 2016) なども最近では注目されています。

t8以前の分割時間は女性年齢が妊娠率に影響するかどうかは結論がでていません。tBは妊娠に関係あるだろうなと私も思っていますが、施設間によりどこをtB時間ととるかは異なっている印象です。これによりKIDScoreは若干変動しますので、他院のデータをみるときには、少し注意が必要そうですね。この論文ではtB 106時間前後、Sandrine Chamayou(J Assist Reprod Genet. 2013)らの論文では、妊娠した胚では104.5(94.6-117.8)時間、Ashleigh Storr(J Assist Reprod Genet. 2015 )のtop quality胚のカットオフは<107.69時間(89.53–127.51)、top sもしくは good quality胚のカットオフは<115.40時間(89.53–134.95)としています。

過去のブログもご参照ください。
タイムラプスインキュベーターについて
タイムラプスのAI scoringどこまで参考にする?(iDA scoreの国内データ)
タイムラプスのAI scoringどこまで参考にする?(iDA scoreの世界データ)
タイムラプスのAI scoringどこまで参考にする?(はじめに)
タイムラプスでのアノテーションを用いた胚選択は従来の形態評価を超えない?
現在のタイムラプスイメージング評価基準は正常核型胚の流産を予見できる?
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文責:川井清考(院長)

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