ヒアルロナンとの結合能力に基づくPICSIを実施することにより、臨床妊娠率、着床率、流産率は改善するかを検討した報告です。

≪論文紹介≫

K C Worrilow, et al.   Hum Reprod. 2013. DOI: 10.1093/humrep/des417

PICSIの前向き、多施設、二重盲検、無作為化対照試験です。
ヒアルロン酸結合アッセイを用いて、ヒアルロナン結合スコアを算定し、カットオフ65％で層別化しました。ヒアルロナン結合スコア65％以下は通常ICSI群とPICSI群に、65％以上の患者は非参加群、通常ICSI群とPICSI群に、2：1：1の割合で無作為に振り分けました。生殖医療施設10施設にて8,002組のカップルをリクルートしました。ヒアルロナン結合スコア> 65%群484人のうち、115人が通常ICSI群に、122人がPICSI群に、247人が非参加群、ヒアルロナン結合スコア65%以下群318人のうち、164人が通常ICSI群に、154人がPICSI群に無作為化しました。
結果：
ヒアルロナン結合スコア65%以下群では通常ICSI: 30.7％に対し，PICSI : 37.4％と高い着床率を認めました［n＝58，63. P＞0.05，（95％CI：-7.7～21.3）］。臨床妊娠率は通常ICSI群: 37.9％と比較して，PICSI : 50.8％と高くなりました（リスク比1.340, 95％CI 0.89-2.0）。ヒアルロナン結合スコア65%以下のPICSI群では、通常ICSI群と比較して流産率が有意に減少しました（調整前ヒアルロナン結合スコア：3.3 vs 15.1％、n＝73、60、P＝0.021、RR 0.22（RR 95％ CI 0.05-0.96）、調整後ヒアルロナン結合スコア　0.0% vs 18.5%, n = 27, 32, P = 0.016）
この研究は当初　200名ずつの試験を検討していましたが、費用面で継続が難しく途中で中断されています。ヒアルロナン結合スコア65％以下の場合、PICSIを実施すると流産率が低下することが示されました。

≪私見≫

ヒアルロナンとの結合できる精子がDNAおよび染色体の異常が少ないことが報告されています。ヒアルロナンとの結合できる精子はアクリジンオレンジを用いた精子DNA断片化テストが正常であることが報告されています（Yagci A, et al. J Androl 2010）。FISH分析でも正常精子群および乏精子症群において、ヒアルロナンとの結合できる精子は異数体および二倍体の精子を除外するのに有効であることがわかっています。（Jakab A, et al. Fertil Steril 2005）

これらのことからもPICSIは、父親側の精子から持ち込まれるDNAダメージや染色体異常を最小限に抑えることができるとされています。

文責：川井清考（院長）

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