Single step Mediumを変えると胚発生・異数性は変わる?(論文紹介)

体外受精用の培養液には、塩類、アミノ酸、抗生物質、ビタミン類、成長因子、血清サプリメント、その他の試薬が様々な配合と濃度で含まれています。その中に1-step Medium(Single step Mediumとも呼ばれています)、2-step Medium (Sequential Mediumとも呼ばれています)があります(過去のブログ:培養液の種類)。
よく使用される二種類のSingle step Mediumを同じ周期で回収した卵子を二群に分け培養したら、胚発生、形態学的変化、異数性率に違いが出るかを調査した報告をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Molly M Quinn, et al. Hum Reprod. 2022. DOI: 10.1093/humrep/deab253

2018年2月から2019年11月まで不妊施設で体外受精を受けた200人の同じ周期にとれた卵子(sibling oocytes)を用いた前向きコホート研究です。
sibling oocytesは左右の卵巣でわけて違うメーカーのSingle step Medium であるGlobal®またはSAGE®培養液に割り当てられました。すべての胚はタイムラプスインキュベーターで培養しました。胚盤胞は着床前検査のためにtrophectoderm生検を行い、次世代シークエンスを用いて異数性を調べました。
結果:
127名の検体を比較したところ、Global®培養液で培養した胚とSAGE®培養液で培養した胚では、高品質の胚盤胞形成率(47.1±31.0 vs. 48.1±27.2%; P = 0.87)や異数性率(62.3±34.0 vs. 56.1±34.4%; P = 0.07)に差は認めませんでした。2細胞分割までの時間(t2)、8細胞分割までの時間(t8)、桑実胚までの時間(tM)、胚盤胞形成までの時間(tSB)、完全胚盤胞までの時間(tB)、拡張胚盤胞までの時間(tEB)などの胚の形態動態パラメータも差を認めませんでした。
市販の培養液を用いた場合、患者背景や卵巣刺激が一定の場合では胚発育や胚盤胞の異数性率に影響を与えないことがわかりました。

≪私見≫

Global®培養液、SAGE®培養液での胚発生には差が認めないという結果になりました。当たり前といえば当たり前の気もします。

クリニック間でも体外受精成績には差があります。これらの違いは患者背景(Kirkegaard, et al、2016、Barrie, et al、2021)、卵巣刺激(Baker, et al、2010、Lin, et al、2013、Ren, et al、2014)が大きな要因であると考えられていますが、培養環境(Munné, et al、2017、2019、Swain, et al、2019)も強く影響するという考え方もあります。これも、当然と言われたら当然なのですが、これらは卵子・精子をどれだけ繊細に取り扱えるかなどの培養室の環境・培養士の熟練度によって現れることが一般的で、市販されている毒性試験などを通過した培養液ではそこまで大きな違いにつながらないと私も感じています。当院も4種類の培養液を使用して胚発生などのデータを比較していますが、大きな差は認めておりません。一番大事なのはガス組成をしっかり保つこと、pHなどをしっかり調整することなど当たり前のことを丁寧に行う培養室スタッフの卵子・精子に向き合う姿勢が成績を大きく左右するのだと思っています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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