アッシャーマン症候群術後の内膜が薄い症例にはG-CSF(論文紹介)

G-CSFの子宮内注入は、子宮内膜が薄い患者の治療を目的として、新鮮または凍結融解胚移植周期に使用されていますが、一様な効果は得られていません。
アッシャーマン症候群の術後再癒着、子宮内膜再生、妊娠予後に対するG-CSFの効果を示した報告はありません。G-CSFの子宮内注入は、子宮鏡下癒着剥離術後の再癒着を防ぎ、子宮内膜の成長を促進するかを調査した報告をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Yanling Zhang, et al.  Hum Reprod. 2022. DOI: 10.1093/humrep/deac023

2016年4月から2021年8月にかけて実施された2施設の前向き二重盲検無作為化対照試験です。中等度から重度のアッシャーマン症候群患者245人をG-CSF群と対照群に1:1の割合で無作為に割り付け、229人を癒着再発の解析対象、164人を妊娠予後の解析対象としました。
すべての患者が、1回目の子宮鏡下癒着剥離術およびバルーン留置術を受けました。セフロキシム250mgを1日2回、メトロニダゾール200mgを1日1回、術後1日目から7日間経口投与。カウフマン療法として、エストラジオール4mg/日21日間投与、後半10日間はジドロゲステロンを20mg/日と追加し、2周期実施しました。術後7日目のバルーン抜去時に、G-CSFを生理食塩水で300μg(1.8ml)を子宮内に注入し、対照群は、単に生理食塩水1.8mlを注入しました。
主要評価項目は,2回目の子宮鏡検査での新たな癒着の形成率、副次評価項目は術後の子宮内膜の厚さ,臨床妊娠率と生児出生率としました。
結果:
手術前の年齢、月経周期、妊娠歴、癒着スコアは両群で同様でした。また、再癒着率や癒着スコア低下の中央値にも差はありませんでしたG-CSFの子宮内注入は子宮内膜の厚さが有意に改善しました(7.91±2.12mm vs. 7.22±2.04mm、P = 0.019、95% CI for difference: –1.26 to –0.12)。累積妊娠率および累積出生率も改善しました(P=0.017およびP=0.042)。多変量ロジスティック回帰分析の結果、術後の子宮内膜の厚さは、妊娠率と生児出生率の独立した予後因子でした。
G-CSFの子宮内注入は子宮内膜の厚さを増加させることができますが、アッシャーマン症候群患者の術後の子宮内再癒着を防ぐことはできませんでした。

≪私見≫

G-CSFの子宮内注入療法は、アッシャーマン症候群患者にとって子宮内膜厚を増加させる有効な補助療法となり得ることを示した報告となりました。
アッシャーマン症候群の病理学的メカニズムは、外傷や感染症が上皮細胞や間質細胞の再生や新生血管の形成を妨げ、最終的には子宮内膜の線維化や瘢痕化を引き起こします。
胚の着床および発育におけるG-CSFの潜在的な役割は、脱落膜のマクロファージを刺激し、Th1/Th2比のTh2反応へのシフトを誘導し、制御性T細胞の増加を促進し、着床に必要なファゴサイトーシスおよび酸化プロセスに影響を与えるなど、その免疫調節作用に由来すると考えられています(Scarpellini and Sbracia, 2009; Xie et al.) 子宮内膜の再生に役立つメカニズムは、子宮内膜の血管リモデリングを促進し、細胞死を減少させることこととされています(Eftekharら、2018年;Xieら、2020年)。

子宮内膜アプローチの臨床的エビデンスが徐々に積み重なっている気がします。今後も注意して最新情報をアップデートしていきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

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