米国泌尿器科学会と生殖医学会の男性不妊症ガイドラインが更新されました(3)ーその提言の内容について(その2 治療)

≪ガイドラインの紹介≫

男性不妊症のアップデート:AUA/ASRMガイドライン(2024年)
Updates to Male Infertility: AUA/ASRM Guideline (2024)

Brannigan RE, 他. J Urol. 2024 Aug 15:101097JU0000000000004180. doi: 10.1097/JU.0000000000004180. PMID: 39145501.(Published online August 15, 2024)

2021年に米国泌尿器科学会と米国生殖医学会から男性不妊症のガイドラインが診断と治療に分けて出版され、このブログでもすでに紹介しています(下記*)。 まだ出て間もないのですが、2020年以降の論文から得られた知見に基づいたアップデート版が公表されました。 今回はその提言(声明 Guideline Statements)についてご紹介します。2回に分けてご紹介しますが、その2回目です。 提言(声明)あるいはその説明文の修正や更新があったものがこの論文に掲載されていますので、修正や更新された点について加えています。

*2021年版を紹介したブログ
男性不妊の診断・治療ガイドライン(AUA/ASRM編:2020年):治療フロー・評価方法(2020年12月14日)、診断/イメージング(2020年12月15日)、手術(2020年12月16日)、手術以外の介入(2020年12月17日)、性腺毒性(2020年12月18日)

今回は、提言(声明)のうち、診断の部分についてご紹介します。

□ガイドラインの提言(声明、GUIDELINE STATEMENTS)
GS#は、AUAのサイトに掲載されているGUIDELINE STATEMENTSの番号です。このブログには全てを掲載していませんので、残りはAUAのサイトまたは上記の*2021年版を紹介したブログをご参照ください。

治療
精子採取:
GS#29
非閉塞性無精子症の男性に対する精子採取では、臨床医はmicro-TESEを実施すべきである。(中等度の推奨;エビデンスレベル,グレードC)

  • この提言(声明)は修正無です。
  • 説明文の説明の順序が変更されています。

GS#30
外科的精子採取後の卵細胞質内精子注入(顕微授精)では、新鮮精子または凍結保存精子を用いることができる。(条件付き推奨;エビデンスレベル,グレードC)

  • この提言(声明)ではAUAガイドラインの命名法に従い、推奨タイプが「中等度」から「条件付き」に変更されました。
  • 説明文では、新鮮精子と凍結保存精子に関する情報、および精子を採取する時期(fresh-TESE-ICSIをするかどうか)に関する不妊治療施設の方針に関する情報が追加されました。

GS#31
閉塞性無精子症の男性の外科的精子採取術では、臨床医は精巣または精巣上体のいずれかからでも精子を採取することができる。(条件付き推奨;エビデンスレベル,グレードC)

  • この提言(声明)ではAUAガイドラインの命名法に従い、推奨タイプが「中等度」から「条件付き」に変更されました。
  • 説明文では精巣上体精子採取に関する記載が追加されました。

GS#32
臨床医は、精子DNA断片化率(DFI)が上昇した無精子症ではない男性において、精巣内精子の使用を検討することができる。(臨床の原則)

  • あたらしい提言(声明)です。
  • この新しい勧告をサポートする説明文が作成されました。

GS#34
臨床医は、逆行性射精に関連した不妊症では、交感神経刺激薬(アルカリ化および/または尿道カテーテル操作の有無にかかわらず)、射精誘発、または外科的精子採取によって治療することができる。(専門家の意見)

  • この提言(声明)では、臨床医が逆行性射精を伴う不妊症患者を治療する場合、交感神経刺激薬について「アルカリ化および/または尿道カテーテル留置の有無にかかわらず」と記載されました。
  • 説明文は、精子洗浄液に関する情報を含むような更新がされました。

閉塞性無精子症(精管結紮術後の不妊症を含む):
GS#37
射精管閉塞(EDO)を有する不妊男性に対して、臨床医は経尿道的射精管切除術(TURED)または外科的精子採取術を検討することができる。(専門家の意見)

  • この提言(声明)では、無精子症の男性の記載を除外しました。
  • 説明文では、骨盤の画像とIUIについての情報が更新されました。

不妊治療のための医学的・栄養学的介入:
GS#38
臨床医は男性不妊に対して生殖補助医療技術を用いることができる。 (専門家の意見)

  • この提言(声明)は修正無です。
  • 説明文では、開始された体外受精周期あたりの生児獲得率および双子の出生についての情報が更新されました。

GS#40
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を呈する患者において、臨床医は病因を決定するために患者を評価し、診断に基づいて治療を行うべきである。(臨床の原則)

  • この提言(声明)は修正無です。
  • 説明文は外因性テストステロン療法に関する情報を含むように更新され、また、初回治療におけるhCGの投与量と頻度についても更新されました。

GS#42
現在または将来の生殖機能に関心のある男性に対して、臨床医は外因性のテストステロンを処方すべきではない。(臨床の原則)

  • 現在および将来の生殖能力に関心のある男性には、外因性テストステロンを処方しないように提言(声明)が修正されました。
  • 説明文も合わせて更新されました。

GS#45
臨床医は、男性不妊症の治療においてサプリメント(例えば、抗酸化剤、ビタミン剤)の有用性は臨床的には疑問が残ることを患者に説明すべきである。男性不妊症の治療目的に使用すべき特定の薬剤を推奨するには、既存のデータは不十分である。(中等度の推奨;エビデンスレベル,グレードB)

  • この提言(声明)ではAUAガイドラインの命名法に従い、推奨タイプが「条件付き」から「中程度」に変更されました。
  • 2020年からのランダム化比較試験に関する情報を盛り込み、推奨をさらに支持するために説明文が更新されました。

GS#47
非閉塞性無精子症の患者において、外科的介入を行う前に、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、アロマターゼ阻害薬、ゴナドトロピンによる薬物治療を支持するデータは限られていることを臨床医は患者に伝えてよい。(条件付き推奨;エビデンスレベル, グレードC)

  • この勧告では、AUAガイドラインの条件付き勧告の命名法に従って、臨床医が患者に知らせることを「すべきである」(should)から「してよい」(may)に修正されました。
  • 説明文は、内科的治療の妥当性に関する情報が盛り込まれました。

性腺毒性のある治療と生殖機能温存:
GS#50
臨床医は、性腺毒性のある治療や男性の生殖機能に影響を及ぼす可能性のあるその他のがん治療を開始する前に、男性に精子を保存すること、できれば複数の検体を保存することを促すべきである。(専門家の意見)

  • この提言(声明)は修正無です。
  • 説明文では精子保存のための郵送キットに関する情報を盛り込んだ修正がされました。

GS#54
臨床医は、性腺毒性のある治療後に無精子症が持続している挙児希望の男性に、micro-TESEが治療の選択肢であることを伝えるべきである。(強く推奨;エビデンスレベル,グレードB)

  • この提言(声明)は修正無です。
  • 説明文は、micro-TESE、conventional TESE、外科的精子採取という用語の使用が適切になるように修正されました。

3回にわたって米国の男性不妊のガイドラインについて修正された部分更新された部分の要点をご紹介いたしました。皆様のお役に立てれば幸いです。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

亀田メディカルセンターでは男性不妊外来を開設しております。
泌尿器科専門医・指導医、生殖医療専門医の小宮顕部長が担当します。
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