男性不妊の診断・治療ガイドライン(AUA/ASRM編:2020年):手術
(精索静脈瘤手術)
25. 外科的精索静脈瘤手術は無精子症の場合を除き、触知可能な精索静脈瘤、不妊症、および精液検査が異常パラメータの場合、実施を推奨するべきである。(中程度の推奨;エビデンスレベル:B)
26.医師は、画像のみで発見された非触知性の静脈瘤の男性には、静脈瘤摘出術を推奨すべきではない。(強い推奨;エビデンスレベル:C)
27. 精索静脈瘤と非閉塞性無精子症(NOA)を持つ男性の場合、夫婦はARTの前に静脈瘤の修復を支持する明確な証拠がないことを知らされるべきである。(Expert Opinion)
(外科的精子回収法)
28. 精子採取を受けている非閉塞性無精子症の男性には、micro TESEを行うべきである。(中程度の推奨;エビデンスレベル:C)
29. 外科的精子回収法を受ける男性では、新鮮な精子または凍結保存された精子のいずれかを顕微授精に用いることができる。(中程度の推奨;エビデンスレベル:C)
30. 外科的精子回収法を受ける閉塞性無精子症の男性では、精巣または精巣上体のいずれかから精子を採取することができる。(中程度の推奨;エビデンスレベル:C)
31. 無射精症の男性に対しては、患者の状態や医師の経験に応じて、交感神経刺激薬、バイブレーター法、電気誘発などの射精誘発もしくはTESEを行われることがある。(Expert Opinion)
32. 逆行性射精男性には尿道カテーテル治療、射精誘発、またはTESEの有無にかかわらず、交感神経刺激薬、および尿のアルカリ化を用いて不妊症を治療してもよい。(Expert Opinion)
(精管切除(結紮)術をふくむ閉塞性無精子症に対する治療)
33.精管切除術後に妊娠を希望するカップルには、外科的再建、外科的精子回収、または再建と凍結保存のための同時精子回収の両方が実行可能な選択肢であることをカウンセリングすべきである(中程度の推奨;エビデンスレベル:C)
34.医師は、精管または精巣上体閉塞性無精子症の男性に対して、顕微鏡下再建が射出精液中に精子が戻る可能性があることを伝えるべきである。(Expert Opinion)
35.無精子症と射精管閉塞症(EDO)を有する不妊男性に対しては、臨床家は射精管の経尿道的切除術(TURED)または外科的精子回収術を検討することができる。(Expert Opinion)
(簡単なポイントの説明)
精索静脈瘤は男性の生殖能力に影響を与える疾患として認識されていますが、臨床的に触知可能な精索静脈瘤、不妊症、および精液検査が異常パラメータの場合に精索静脈瘤を手術することで、精液パラメータの改善を認め、妊娠率が優位に上昇することが報告されています。ただし、自覚症状もなく精液所見に異常がない精索静脈瘤を手術することによりメリットは今のところ推奨されてはいません。今回のガイドラインでは精索静脈瘤の手術方法も書き込みはありませんでした。
閉塞性無精子症の男性では、凍結保存精子と新鮮精子のどちらを使用してもICSIの成功率に大差はありませんので、採卵に先立ちTESEを行うことが一般的です。非閉塞性無精子症の男性の場合、採取できる精子数が限られていて凍結保存をしてしまうと運動性がなくなったりすることも考えられますので採卵と同時に精子採取を行う施設もあります。ほとんどの場合、凍結保存精巣内精子と新鮮精巣内精子の間で転帰に差は認められませんでしたので、事前にTESEを行うことが一般的です。
射精機能障害を持つ男性から精子を採取するための陰茎バイブレーター法、電気刺激などのデータが限られており、TESEを行うことが多い印象をもっていますが、今回のガイドラインではデータが限られているというコメントにとどめています。
精管切除術後の挙児希望のあるカップルに、ニーズや患者の希望に応じて治療選択を提示すべきとされています。後天性または先天性の閉塞(CBAVDを除く)のほとんどの症例では、女性パートナーの不妊原因がない場合には、マイクロサージェリーによる再建が望ましいとされていますが、TESEを行うことも多いような印象をうけます。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。