新鮮胚移植のトリガー時P4値は成績に影響する(J Assist Reprod Genet. 2024)

卵巣刺激を行った際のトリガー時のプロゲステロン(P4)値上昇は、①子宮内膜には新鮮胚に不利な状況を作る、②卵子の質(異数性・卵細胞質)の低下はおこさない、というのがコンセンサスで良いと思います。
今回の報告は、トリガー時P4値 2 ng/mL未満の場合の新鮮胚移植と凍結融解胚移植の出生率について比較検討した論文です。

≪ポイント≫

トリガー時P4値 2 ng/mL未満の場合でも、トリガー時P4値が低い方が新鮮胚移植の成績がよさそうです。

≪論文紹介≫

Sarah Hunt, et al. J Assist Reprod Genet. 2024 Apr 3. doi: 10.1007/s10815-024-03103-y.

トリガー時P4値 2 ng/mL未満の場合の新鮮胚移植と凍結融解胚移植の出生率について、平均年齢31歳前後の集団と35歳以上のサブグループ集団で比較検討したレトロスペクティブコホート研究です。
2015年から2019年に初回体外受精周期の女性26,661名(35歳以上の女性4,687名を含む)にて、ロジスティック回帰モデル内で多変量分画多項式交互作用分析を行い、血清P4濃度と初回移植のfreeze all 戦略または新鮮胚移植戦略の優劣を検証しました。評価項目は28週以降の出生率としています。
結果:
新鮮胚移植15,539周期、freeze all 戦略11,122周期を比較したところ、freeze all 戦略の出生率が高くなりました(43.9% vs. 40.3%)。交絡因子を調整した結果、新鮮胚移植とfreeze all 戦略の出生率との関連に血清P4濃度が関連し(p for interaction 0.0001)、血清P4濃度が高いほどその影響は大きくなりました。この関係は35歳以上の患者でも観察されました(p for interaction 0.01)、血清P4濃度による差がほとんど見られませんでした。

≪私見≫

この報告では血清P4値の4分位でもodds ratioをみています。
 P4 0.03- OR 1.13 (1.01, 1.28)
 P4 0.71- OR1.22 (1.10, 1.36)
 P4 1.01- OR 1.44 (1.29, 1.60)
 P4 1.35- OR1.48 (1.33, 1.65)
またsupplementでは単一胚移植と胚盤胞移植でのサブグループ解析も行なっていて同様の傾向があることを示しています。
35歳以上の差が小さくなった理由ですが、この論文では胚質バイアスがでているのではないか?と記載しています。正常核型胚での検証が着床時の内膜側評価を色濃く反映すると考えた場合、若年層が大きく差がでて高齢層で差がちいさくなるのは当然の結果である気がします。

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文責:川井清考(院長)

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