排卵誘発時のプロゲステロンの上昇は全胚凍結時でも成績に影響する?(論文紹介)
排卵誘発時のプロゲステロンの上昇は体外受精成績に影響を与えるか。同じグループからの2つの最新の論文です。
1つ目の報告では、「新鮮胚移植を含むと成績が落ちるので胚質が低下するのではないか?」という着眼点で記載されました(Racca Aら. Hum Reprod. 2018)。
2つ目の報告では卵子提供ではフリーズオール戦略となるわけですが、その場合だと排卵誘発時のプロゲステロンの上昇は臨床成績には影響を与えないとしました。(当院ブログ:排卵誘発時のプロゲステロンの上昇は胚質に影響する?(論文紹介:その2))
同じグループから相反する結論に導いた論文がでてきて不思議だな〜と思っていたのですが、やっと答えとなるような報告がでてきました。
自身の卵子を用いた体外受精でのフリーズオール戦略を考えた場合、排卵誘発時のプロゲステロンの上昇は累積出生率に影響するか示した報告です。
≪論文紹介≫
A Racca, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab160
2012年から2018年の間に3施設で実施したday3/5/6日目のフリーズオール戦略が適用されたすべてのGnRHアンタゴニスト法で卵巣刺激を行い、受精法としてICSIを行った周期のマッチドケースコントロール(各患者1周期のみを対象)です。
合計942名の患者(血中プロゲステロン値が排卵誘発時に1.5ng/ml以上に上昇したP上昇群 471名と、血中プロゲステロン値値が排卵誘発時に1.5ng/ml未満であるP正常群 471名のマッチドコントロール)を解析に含めました。対照群のマッチングは、年齢(±1年)と採卵数(±10%)に従って行いました。主要転帰は、妊娠24週以降の生児出生率としました。
結果:
患者背景は同等であり、トリガー日のエストラジオール濃度は、P上昇群で有意に高くなりました。受精率は差がありませんでした。胚盤胞凍結数は同じでしたが初期胚凍結数はP上昇群で有意に高くなりました。生児出生率は、多変量GEE回帰分析(独立変数として、採卵時の女性年齢、FSH総投与量、排卵誘発日のプロゲステロン濃度、凍結日、少なくとも1つの最高品質の胚を移植したこと、過去のIVFサイクル数を考慮)を用いて交絡因子を調整した後も、P上昇の有無にかかわらず差は認めませんでした(P正常群 vs. P上昇群: 29.3% vs. 28.2%、P = 0.773)。
フリーズオール戦略を考えた場合、卵胞後期プロゲステロン高値(LFEP:late follicular elevated progesterone)は累積出生率にも胚の凍結割合にも影響を与えません。
≪私見≫
この論文を通して、排卵誘発時のプロゲステロンの上昇は出生率に影響を与えないことがわかりました。そして、このことは以前紹介した排卵誘発時にプロゲステロン上昇しても受精卵の染色体異常は変わらないという結論と一致します。(当院ブログ:排卵誘発時のプロゲステロンの上昇は胚質に影響する?(論文紹介))
ただ、この論文 ディスカッションで大きな問題提起をしています。
形態学的な受精卵の評価はP上昇群で高品質の胚盤胞の割合が減少することが示されています。これはロジスティック回帰分析でも同様の結果となっています。そして、この結果は一つ目の報告と整合性があります。
現在のところ、A Raccaらは排卵誘発時のプロゲステロンの上昇は受精卵の染色体異常とは関係しないが、もしかすると細胞質との関連があることを暗喩しているのではないかと考えています。次の報告があるのでしょうね。。。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。