トリガーで卵の質は変わる?(論文紹介)

卵巣刺激は患者様の背景、次に卵巣刺激の方法、排卵誘発のトリガーの種類で決定していきます。同じ卵巣刺激法でも使うFSH製剤の種類、投与量、投与期間などによっても少しずつ成績が異なっていきます。よく話題にあがるのがトリガーの種類です。2021年現在 トリガーはu-HCG、r-hCG(オビドレル®︎)、GnRH-a(スプレキュア®️、ブセレキュア®︎)になりますが、どれを使うかは正しい答えはなく患者様の背景、卵巣刺激の方法によってきます。
以前のブログ、トリガー別での正常胚の割合(論文紹介)ではトリガーの種類により正常核型胚には差がないという論文を紹介しました。今回ご紹介する論文は、同じstudy questionで再現性があるかどうかを検討したものです。

≪論文紹介≫

Danilo Cimadomo, et al. J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02124-1
凍結融解胚盤胞移植において、GnRH-agonistまたはu-hCGのトリガーが卵子の能力に影響するかどうかを評価することを目的としました。
体外受精を実施した患者2,104人(GnRH-a群1,015人、u-hCG群1,089人)を対象とした観察研究(2013年4月~2018年7月)です。
主要評価項目は、媒精した卵子1個あたりの正常核型の胚盤胞率としました。副次評価項目は、卵子あたり成熟率、移植あたりの生児出産率、累積生児出産率としました。
結果:
母体の年齢を調整した一般化線形モデルでは、媒精した卵子1個あたりの正常核型の胚盤胞率は両群ともに差がありませんでした。
移植1回あたりの生児出産率は、GnRH-a群で44%(n=403/915)、hCG群で46%(n=280/608)と同程度でした。
採卵1回あたりの累積生児出産率はGnRH-a群で42%(n=374/898)、u-hCG群で25%(n=258/1034)と差があることが報告されました。
この差はGnRH-a群では母体年齢が低く、回収卵子数が多かったことによるものでトリガーそのものに起因するものではありませんでした(多変量解析OR=1.3、95%CI:0.9-1.6、調整後p値=0.1)。
結論:
GnRH-aトリガーは、OHSSのリスクが高い患者に限らず、freeze all strategyにおけるu-hCGの代替手段として有効です。
患者背景と治療結果:
GnRH-a群とu-hCG群の卵巣刺激データを記載します。
卵巣刺激はFSH150-300単位を用いたGnRHアンタゴニスト法。
卵巣刺激期間(10±1.5日と9.9±1.8日)、FSH製剤の総投与量(2732±1388と2816±1491IU)、u-hCG群は母体年齢が高く、AMHが低く、15mm以上の発育卵胞数が少ない傾向にありました(母体年齢:38.6±3.4歳と40.1±3.1歳、p<0. 01)、(AMH:2.8±1.9ng/mlと1.5±1.2ng/ml、p<0.01)。
結果として、下記の表のように開始周期別に回収卵なし、MII卵なし、受精卵なし、胚盤胞なし、正常核型胚盤胞なしはu-hCGトリガー群が高く見えますが、年齢を補正すると差がなくなっています。

  GnRH-aトリガー群(1,017周期) u-hCGトリガー群(1,118周期)
回収卵なし 2周期:0.2% 29周期:2.6%
MII卵なし 8周期:0.8% 41周期:3.7%
受精卵なし 13周期:1.3% 43周期:3.8%
胚盤胞なし 84周期:8.3% 217周期:19.4%
正常核型胚盤胞なし 227周期:22.3% 292周期:26.1%

≪私見≫

当院では、トリガーは大半がdual trigger(hCG製剤とGnRH-a製剤)としていますが、下垂体機能不全が疑われる症例に関してはhCG製剤、OHSSハイリスク症例に関してはGnRH-a製剤で行なっています。
海外のGnRH-a製剤は注射製剤で国内の点鼻製剤とは異なります。今後はGnRH-aの種類、投与経路、投与量などを比較する研究が必要であり、国内では多用されているGnRH-a製剤の点鼻投与が注射投与と同等の効果があるかどうかも検討していく必要があると思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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