AMHが低いと卵巣刺激をしても回収卵子数が減るの?(論文紹介)

AMHは多くの不妊クリニックで測定される検査となってきました。
AMH値が低いと一般不妊治療成績には影響しませんが、体外受精治療の回収卵子数に影響を与えることがわかっています。
POSEIDON基準では卵巣刺激低反応の基準はAMH 1.2ng/ml かつ回収卵子数5個以下となっていますが、今回紹介する論文は多施設前向き研究で検討したものです。

≪論文紹介≫

Valerie L Baker, et al.  Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.056

AMH 0.93ng/mlをカットオフ値として用いると採卵時の回収卵子数4個以下(卵巣刺激低反応群)となることを予測できるかどうかを検討した多施設前向き研究です。(アメリカとカナダの15の体外受精施設)。
体外受精経験が2回以下の平均年齢34.9歳(21~45歳)の女性を対象としました。
平均BMI 26.26、喫煙率は2.8%、人種はwhite 76.1% black 9.5% Asian/pacific islander 11.9%でした。卵巣刺激に用いたtotal ゴナドトロピン量は平均3558単位で卵巣刺激低反応群がやや多めの使用となっていました。(卵巣刺激低反応群:4260単位、正常群:3429単位)
評価項目は回収卵子数としました。
結果:
472名(卵巣刺激低反応群:74名、正常群:398名)で検討したところ、卵巣刺激低反応群の平均AMH値は0.99ng/mL(中央値0.76ng/mL)であったのに対し、正常~高値反応群の平均AMH値は2.83ng/mL(中央値2.36ng/mL)でした。AMH値0.93ng/mLのカットオフ値が卵巣刺激低反応群の予測因子であることを確認するために、ROC解析を行ったところ、AUC 0.852で、感度と特異度はそれぞれ63.5%と89.2%、陽性適中率は52.2%、陰性適中率は92.9%であった。AMH値は血漿・血清に強く相関をみとめました(r value= 0.9980)。AMHのカットオフ値である1.77ng/mLは、卵胞数が15以上の場合、感度83.8%(95% CI 77.7-88.5)、特異度59.9%(95% CI 54.2-65.4)であった。
結論:
卵巣刺激低反応群にAMHのカットオフ値は有用であることがわかりました。

≪私見≫

この論文 不妊治療をおこなっている立場からすると当たり前といえば当たり前なんですが、論文の中身を読んでいくと、とても気づきが多い論文です。彼ら示した卵巣刺激低反応群を予測するAMH 0.93ng/mlをカットオフ値は別の集団で検討したものです。
研究に参加した医師たちはAFC値で大体の予想はついていたでしょうがAMH値を知らされずに、通常より少し強めの卵巣刺激をおこなったにも関わらず、卵巣刺激低反応群では(平均AFC 8.99→平均回収卵子数 2.01→平均成熟卵子数 1.32)となっています。急激に回収卵子数が減っているのは同じ月経周期2-4日で卵巣刺激を開始していますが、卵巣刺激低反応群では実はドミナントがきまりかけているのでは?という予想もできます。(平均E2値 卵巣刺激低反応群:84.46pg/mL 正常群:70.15pg/mL)刺激を少し早く開始したらもう少し回収卵子数が増えることも考えられるかもしれません。また高刺激でも回収卵子数が増えないのだったら低刺激でもいいと思ってしまいますよね。
AMH値がカットオフ値より高いにもかかわらず、回収卵子数が4個以下の卵巣刺激低反応群が13名(472名のうち2.7%)いました。13名のうち10名ではAFC 10以上であることからFSHR variantなどを考えてもいいのかもしれません。ただし全体で2.7%しか期待を裏切らないというのも良い情報ですよね。
この論文のAMH測定試薬はBeckman Coulter社のもので当院の測定社とは異なります。それぞれの試薬での検討が必要と思います。

文責:川井清考(院長)

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