採卵前後のホルモン動態(論文紹介)

採卵後のホルモン動態は、新鮮胚移植を行うかどうかの判断の上で非常に重要となります。 黄体補充はいつ行うか?内膜のずれはどうなのか?新鮮胚移植で妊娠した後の凍結融解胚移植周期の黄体補充はどうしたらよいのか?などです。
全胚凍結を行った症例(つまり採卵での卵子の回収以外、採卵後のホルモン補充なし)での採卵前から採卵後のホルモン動態を示した報告をご紹介します。

≪論文紹介≫

Lan N Vuong, et al. Hum Reprod. 2020. DOI: 10.1093/humrep/dez235

2016-2017 年にベトナムで実施されました。FSHによる卵巣刺激中にGnRHアンタゴニストの併用投与を受けた正常な卵巣予備能を有する女性161人(採卵二ヶ月以内 AMH 1.25ng/mL以上またはAFC6以上)を対象とし、卵巣刺激はFSH 150-300単位で卵巣刺激を実施したGnRHアンタゴニストプロコトールでオビドレル250ug(rhCG)トリガーで採卵を行い、全胚凍結を行った症例の採卵前後のホルモン動態を調べた前向き研究です。ホルモン値は、誘発日、hCG前、hCG後12、24、36時間、採卵後1、2、3、4、5、6日の採血で測定された。主要評価項目は、黄体期早期のプロゲステロン、LH、エストラジオールおよびhCGの血清濃度としました。

結果:
プロゲステロン値は採卵1日後から上昇し始め、採卵4日後にピークに達し(114ng/mL)、採卵5日目以降に減少しました。プロゲステロン値のピークがった割合は採卵+4日、採卵+5日、採卵+6日でそれぞれ38.8%、29.4%、13.8%でした。約2/3の患者は、採卵+4日から採卵+6日にかけてプロゲステロン値が低下しました。hCGトリガー前プロゲステロン値はhCG後24時間後プロゲステロン値と有意に相関し(r2 = 0.28; P < 0.001)、さらに採卵 +4日プロゲステロン値と有意に相関した(r2 = 0.32; P < 0.001)。LHはhCGトリガー12時間後にピークを迎え(4.4 IU/L)、24時間持続しましたが、生理的レベルと比較してほとんど上昇ませんでした。血清エストラジオールのピークはトリガー後24時間と採卵+4日の2回でした。hCGの最高値(130mIU/mL)は注入後24時間でした。11mm以上の発育卵胞数と血清プロゲステロン値との相関はhCGトリガー24時間後および36時間後、採卵 +1日に認めました。

今回の症例は 平均女性年齢 31.8歳、BMI 20.5、AMH 4.55 ng/ml 、AFC 15.1個、total FSH量 2375単位、卵巣刺激期間 8.7日、回収卵子数13.8個の場合のホルモン動態となっています。

≪私見≫

プロゲステロンのピーク濃度は採卵後4日後に起こり、6日目までに平均35%低下することがわかりました。このデータを振り返っても、胚盤胞が着床するまえにプロゲステロンがドロップするわけですから、新鮮胚移植を行ううえで4日目以降の黄体補充が推奨されることがわかります。
面白い内容として、生理的に意味がないレベルでないにせよ、LH レベルはトリガー後 12 時間以内にピークに達したことです。これは何を意味するのでしょうか。偶然なのか、必然なのか。卵巣刺激は奥が深いですね。

文責:川井清考(院長)

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