精子DNA断片化率が流産、低出生体重と関連?

≪研究の紹介≫

精子DNA断片化率は生殖補助医療における妊娠予後や児の安全性に影響する

Sperm DNA fragmentation index affect pregnancy outcomes and offspring safety in assisted reproductive technology.
Li F, et al. Sci Rep. 2024 Jan 3;14(1):356. PMID: 38172506.

精子DNA断片化率(sperm DNA fragmentation index, DFI)を測定することの意義について、2024年4月6日のブログ「精子DNA断片化率が精液所見やART成績と関連」でもご紹介しました。IVF/ICSI実施例での妊娠率や精液検査所見と関連するというものでした。

一般的に、DFIは受精、胚発生、妊娠率、流産といったこととの関連性について検討が多くされていますが、DFIが児の予後や安全性に及ぼす影響を調べた研究はあまりありませんでした。今回は、妊娠した後に関連する可能性があるということを示した論文です。中国からの大規模な研究結果になります。

≪研究の要旨≫

生殖機能や、胚発生、妊娠を予測するためにDFIを測定することは学術的に興味深いものです。しかし、生殖補助医療(ART)におけるDFIが妊娠の転帰や児の安全性に与える影響については、現在も議論があります。この研究では、中国の生殖医療センターで体外受精(conventional IVF, IVF)または顕微授精(ICSI)を受けた6330症例から得られたデータの解析が行われました。

症例はIVF群とICSI群の2群に分けられました: それぞれの群の中で、さらに3つのサブグループに分けられました; IVF:A群(DFI 15%未満)3123例、B群(DFI 15~30%)561例、C群(DFI 30%以上)46例。ICSI:A群(DFI 15%未満)1967例、B群(DFI 15~30%)462例、C群(DFI 30%以上)171例となっています。

3群間で患者背景に有意差はなく、DFIは受精率、妊娠率、死産率、先天異常に有意な関連を認めませんでした。しかしながら、DFI>30%およびDFI 15-30%のIVF/ICSI群の流産率は、DFI<15%のIVF/ICSI群の流産率よりも有意に高く、DFI>30%のICSI群の流産率は、DFI 15-30%の群よりも有意に高く、流産率と精子DFIとの間に正の相関がありました(オッズ比OR 1.095; 95%CI 1.068-1.123; P < 0.001)。DFI>30%およびDFI 15~30%のIVF/ICSI群の生児の出生体重は、DFI<15%のIVF/ICSI群の乳児に比べて統計的に有意な低値でした。さらに、DFI>30%のICSI群の生児の出生体重は、DFI 15-30%群よりも低値でした。出生体重とDFIとの間に負の相関が認められました(OR 0.913; 95% CI 0.890-0.937; P < 0.001)。

結果:
研究結果をまとめますと、DFIは、生殖補助医療における流産率と出生体重の両方に影響を及ぼしていました。また、流産率とDFIとの間には正の相関が、出生体重とDFIとの間には負の相関がありました。

表. DFI値別の治療成績の比較


因子
IVF群
DFI < 15%
(n = 3123)
DFI 15-30%
(n = 561)
DFI ≥ 30%
(n = 46)
P 値
女性パートナー年齢 (歳) 29.63 ± 3.64 30.51 ± 3.93 30.82 ± 3.95 0.083
男性パートナー年齢 (歳) 30.06 ± 2.74 30.32 ± 2.94 31.72 ± 2.73 0.142
受精率(%) 63.47 ± 27.51 56.84 ± 30.51 61.05 ± 39.95 0.265
胚移植あたりの妊娠率 (%) 47.97 (1498/3123) 46.88 (263/561) 43.48 (20/46) 0.754
流産率 (%) 13.75 (206/1498) 20.15 (53/263)a 30.00 (6/20)a 0.005
死産率 (%) 0.31 (4/1292) 0.48 (1/210) 0.00 (0/14) 0.551
出生体重 (グラム) 2824.9 ± 723.64 2631.2 ± 701.39a 2592.7 ± 678.52a < 0.001
先天異常 (%) 0.54 (7/1288) 0.48 (1/209) 7.14 (1/14) 0.105

因子
ICSI群
DFI < 15%
(n = 1967)
DFI 15-30%
(n = 462)
DFI ≥ 30%
(n = 171)
P 値
女性パートナー年齢 (歳) 29.64 ± 4.31 30.22 ± 4.64 30.44 ± 5.10 0.118
男性パートナー年齢 (歳) 31.13 ± 3.64 31.38 ± 3.09 31.66 ± 3.72 0.293
受精率(%) 60.34 ± 32.27 55.63 ± 37.45 60.59 ± 38.32 0.192
胚移植あたりの妊娠率 (%) 48.91 (962/1967) 47.19 (218/462) 43.86 (75/171) 0.359
流産率 (%) 13.62 (131/962) 19.72 (43/218)a 33.34 (25/75)a,b < 0.001
死産率 (%) 0.48 (4/831) 0.57 (1/175) 2.00 (1/50) 0.305
出生体重 (グラム) 2852.3 ± 741.41 2637.2 ± 711.28a 2523.2 ± 692.77a,b < 0.001
先天異常 (%) 0.60 (5/827) 1.15 (2/174) 2.04 (1/49) 0.168

≪筆者の意見≫

今回ご紹介した研究では、DFIは受精率や妊娠率には有意な影響を与えていませんでした。ただし、データをよく見るとDFIが高い方が、妊娠率が低い傾向があるとも考えられます。DFIが高いと流産率があがり、出生体重が小さくなる可能性があるという結果は重要です。DFIと先天奇形の関連性については、患者さんがとても心配する点ですが、差がなかったという結果で安心しました。

この研究では、症例の年齢をみると30歳前後で比較的若い患者さんを対象としており、これが受精率や妊娠率にあまり影響しない理由かもしれません。精液所見が記載されていないのですが、本当に体外受精や顕微授精が必要であったかどうかは少し疑問が残ります。DFIの分布をみると偏りが大きく、DFI <15%、DFI 15-30%、DFI>30%がそれぞれ、症例の80.4%、16.2%、3.4%でした。つまり、異常例が少ない印象です。一方で、DFIの測定方法の記載がなく不明でした。最近の我々のクリニック受診例でDFIを調べた症例では、年齢が4-5歳くらい高齢ですが、DFIの分布がそれぞれ30.5%、43.7%、25.7%といった割合でした。したがって、大分様相が異なるので、この論文の結果の解釈にはすこし注意が必要と思われます。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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