精子DNA断片化率が精液所見やART成績と関連

≪研究の紹介≫

精子DNA断片化率と精液所見パラメータとの相関および精子DFIがARTの結果に及ぼす影響の解析

Correlation analysis of sperm DNA fragmentation index with semen parameters and the effect of sperm DFI on outcomes of ART

Liu K, et al. Sci Rep. 2023 Feb 15;13(1):2717. PMID: 36792684.

不妊の男性因子を評価する検査で最も重要なのは精液検査で、その量、精子濃度、精子運動率、精子の形態などを調べます。精液をさらに詳しく調べるものの一つに精子DNA断片化率があります。精子は遺伝情報をDNAという物質で持っているのですが、そのDNAが壊れてしまっている精子がどのくらいの数いるのかを評価するのものです。従来の精液検査では評価できない精子の質を判定するものです。精子DNA断片化率が高いと妊娠率が低下してくるとされており、検査できる医療機関も増えてきていると思われます。当クリニックでも精子クロマチン分散試験をもちいて精子DNA断片化率を評価できるようにしています。
この研究は、精子DNA断片化率と、従来の精液検査所見やARTの成績との関連を検討したもので、大規模なものとなっています。

≪研究の要旨≫

一般的な精液検査では、男性の生殖機能の評価は限定的であり、異常であったからといって男性不妊と診断できるわけではありません。男性不妊症の多くは、ルーチンの精液検査では検出できない精子DNA損傷/断片化によって引き起こされます。この研究では、精子DNA断片化率(Sperm DNA fragmentation index, DFI)と従来からの精液検査所見、精子形態、体外受精-胚移植(IVF-ET)/顕微授精(ICSI)との関連を分析しました。さらに、DFIが男性の生殖機能や体外受精胚移植(IVF-ET)/顕微授精(ICSI)の成績を予測できるかどうかを検討しました。
 研究は次のように行われました。まず、男性不妊症1462人で初回のIVFやICSI実施例からDFIや従来の精子検査所見、精子形態に関するデータが収集されました。DFIは精子クロマチン分散化試験にて評価しました。DFIの程度により、I群(DFI≦15%)468例、II群(15%<DFI<30%)518例、III群(DFI≧30%)476例にわけられました。さらに、血漿中のマロンジアルデヒド(MDA, 酸化ストレスの指標)および総抗酸化能(TAC)を評価しました。IVF-ET/ICSIを実施した不妊カップル101組の男性パートナーにおいて、DFI、精液検査所見、精子形態のデータを抽出し、DFI値に応じてIVF-I群(DFI≦15%)、IVF-II群(15%<DFI<30%)、IVF-III群(DFI≧30%)、ICSI-I群(DFI≦15%)、ICSI-II群(15%<DFI<30%)、ICSI-III群(DFI≧30%)に細分化しました。DFIがIVF-ET/ICSIの成績に及ぼす影響を解析しました。

結果:
結果は以下のようになっていました。精子生存率、精子濃度、臨床妊娠率(PR%)はIII群とII群で有意差を認めました(P < 0.01)。精子生存率、精子濃度、PR%はIII群とI群で有意差を認めました(P < 0.01)(表1)。精液量、年齢、禁欲日数、精子正常率には3群間で有意差を認めませんでした(P > 0.05)。DFIはMDA含量と正の相関(P < 0.01)、TACと負の相関(P < 0.01)を示しました。DFIは精子生存率、精子濃度、PR%と負の相関を認めました(P < 0.01)(表2)。一方、DFIは年齢、禁欲日数、精液量、精子正常形態率との相関を認めませんでした(r = 0.16, 0.05, 0.04, -0.18, p > 0.05)。
IVF-I群と比較して、IVF-III群では精子濃度およびPR%が低下していました。精子正常形態率はIVF-III群でIVF-II群より低値でした。ICSI-III 群ではPRが低下していました。精子正常形態率はICSI-Ⅲ群でICSI-Ⅰ群より低値でした(P < 0.05)(表2)。受精率、分割率、胚移植率、PR%は、体外受精群と顕微授精群、およびすべてのサブグループ間で統計学的有意差は認められませんでした(P > 0.05)。

結論:
結論としては以下のようになります。DFIは精子生存率、精子濃度、PR%と負の相関があり、抗酸化物質はDNA断片化率を低下させました。DFIは、男性の生殖機能の評価において有用であることが証明されていましたが、生殖補助医療(ART)後の妊娠転帰の予測因子としての意義については、さらなる調査が必要と考えられます。

表1 DFI値別の精液検査パラメータの比較

パラメータ I群 DFI≦15%
n=468
II群 15%<DFI<30%
n=518
III群 DFI≧30%
n=476
禁欲期間 (日) 4.1 (3.1, 5.8) 3.9 (3.1, 7.3) 4.8 (3.6, 8.1)
年齢(歳) 28.9 (23.0, 33.0) 36.0 (23.0, 39.3) 36.1 (26.1, 39.6)
精子生存率(%) 41.3 (34.2, 50.1) 35.6 (31.5, 43.7)* 27.7 (18.6, 38.5) *#
精液量 (ml) 3.0 (2.2, 4.3) 3.05 (2.3, 4.2) 3.5 (3.5, 4.7)
精子濃度(×106/ml) 85.5 (60.3, 150.3) 66.2 (56.3, 89.6)* 45.5 (21.6, 61.5)*#
精子正常形態率(%) 2.1 (1.0, 3.2) 2.0 (1.1, 4.6) 1.5 (0.6, 1.7)
臨床妊娠率% 36.1 (30.3, 42.5) 28.8 (23.5, 37.3)* 21.3 (10.6, 32.3)*#
MDA (nmol/ml) 5.13 (3.21, 6.30) 7.11 (5.82, 9.15) 9.65 (6.92, 11.63)
TAC (U/L) 20.52 (16.60, 22.16) 15.50 (13.21, 18.30) 11.35 (9.51, 15.15)

測定値は、平均 (四分位間)で表記しています。
MDA, Seminal plasma malondialdehyde; TAC, Total antioxidant capacity。
*はI群との比較, #はII群との比較です。

表2. DFIと精液検査パラメータとの相関。

パラメータ 相関係数 P パラメータ 相関係数 P
禁欲期間 0.05 0.43 妊娠率 -0.43 0.002
年齢 0.16 0.07 精子生存率 -0.55 0.003
精子濃度 -0.15 0.03      
精液量 0.04 0.46      
精子正常形態率 -0.18 0.08      

表3. IVF/ICSI実施群別の患者背景、精液所見、DFIの比較。

パラメータ IVF-I群
(n = 23)
IVF-II群
(n = 21)
IVF-III群
(n = 12)
χ2 or F ICSI-I群
(n = 12)
ICSI-II群
(n = 15)
ICSI-III群
(n = 18)
χ2 or F
女性年齢
(歳)
32.00 ± 4.69 31.61 ± 4.72 32.85 ± 5.66 0.285 32.16 ± 4.97 31.75 ± 4.80 32.66 ± 4.02 0.503
BMI
(kg/m2)
23.52 ± 3.01 22.06 ± 6.21 23.50 ± 3.36 0.551 23.01 ± 3.41 22.58 ± 3.52 24.02 ± 4.61 1.515
FSH
(U/L)
5.89
(5.51,9.26)
6.83
(6.26,9.15)
5.90
(5.02,8.63)
2.205 7.82
(5.95,9.01)
8.3
(6.86,10.22)
6.86
(5.60,7.90)
4.052
男性年齢
(歳)
32.30
(29.00,39.00)
33.00
(30,38.00)
38.00
(31,41.50)
2.133 34.0
(29.60,39.51)
32.0
(30.20,35.0)
31.80
(30.20,36.00)
0.624
妊娠率
(%)
37
(26.21,41.22)
28
(15.50,32.80)
20
(19.65,35.05)#a
11.826* 38.20
(26.88,51.20)
26.11
(16.58,33.81)
19.52
(12.62,28.71)#cd
10.286*
精子濃度
(× 106 /mL)
89.10
(63.33,153.80)
59.20
(31.78,85.60)
45.30
(30.23,61.85)#a
5.162* 67.0
(35.8,105.29)
44.5
(16.80,67.55)
41.2
(20.60,99.17)
4.132

**P < 0.01, *P < 0.05; 測定値は平均±標準偏差または平均(四分位間)。
#aはIVF-I群との比較, #bはIVF-II 群との比較, #cはICSI-I群との比較, #dは ICSI-II群との比較で, P < 0.05.
DFI 値に応じて IVF実施症例は IVF-I群 (DFI ≤ 15%), IVF-II 群(15% < DFI < 30%), IVF-III 群(DFI ≥ 30%)に分けられています。ICSI実施症例もICSI-I 群(DFI ≤ 15%), ICSI-II 群 (15% < DFI < 30%) およびICSI-III群(DFI ≥ 30%)に分けられています。

≪筆者の意見≫

体外受精実施例では、DFIが高いと精液所見が悪くなり、妊娠率も低下していました。生殖医療の治療成績の予測としてやはり有用と思われます。なるべく診断治療の早期に測定しておいた方が治療方針の決定をはやめにできますので、原因不明とか反復流産といった症例に限定せずに実施するメリットは十分あると考えられます。この研究ではサブグループ解析(表3)での検討症例数が限定的なので、より多くの症例の結果を用いた研究の結果が必要と思われますが、採卵するような症例では事前に実施しておくとよいと感じました。この研究は中国での検討結果なので、同じアジア人として日本人にも当てはめやすいと思われます。流産率や、生児獲得率、出生児の状態についての検討結果があればまた紹介したいと思います。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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泌尿器科専門医・指導医、生殖医療専門医の小宮顕部長が担当します。
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