新鮮胚移植成績にトリガー時プロゲステロン値は妊娠率・出生率に影響を与えるのは間違いなさそうです。では、患者さま、そして私たち医療者が新鮮胚移植と全胚凍結を迷った場合、カットオフ値をどうするのがよいのでしょうか。

≪ポイント≫

新鮮胚移植成績に悪影響を与えるトリガー時P4値カットオフは1-1.5ng/mLであり、2ng/mLを超えた場合は新鮮胚移植を取りやめることが好ましそうです。
1.0ng/mL(Ange Wang, et al. 2017)、1.14ng/mL(Yunhai Yu, et al. 2020)、1.5ng/mL(Matheus Roque, et al.2015)

≪論文紹介≫

① 前向き観察研究
Matheus Roque, et al. Fertil Steril. 2015 May;103(5):1190-3. doi: 10.1016/j.fertnstert.2015.01.045.
GnRHアンタゴニスト法初期胚移植をおこなった新鮮胚移植351周期（トリガー日P4値1.5ng/mL以下）、全胚凍結群179周期（HRT周期凍結融解胚移植）で比較検討し、着床率 19.9％ vs. 26.5％、臨床妊娠率 35.9％vs. 46.4％、継続妊娠率 31.1％ vs. 39.7％でとなりました。トリガー日P4値1.5ng/mL以下でも新鮮胚移植成績が低下している可能性が否定できないことがわかりました。

② 後ろ向きマッチングコホート研究
Ange Wang, et al. Fertil Steril. 2017 Aug;108(2):254-261.e4. doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.05.007.
マッチングした新鮮胚移植1,455周期、全胚凍結群1,455周期で着床率と妊娠継続率を検討。
全胚凍結群の妊娠継続率52.0％（95％CI、49.4-54.6）、新鮮胚移植は45.3％（95％CI、42.7-47.9）であり、OR 1.31（95％CI、1.13-1.51）でした。層別解析では、35歳以上および35歳未満の女性でP4濃度が1.0ng/mLを超える場合、全胚凍結群の妊娠継続率が高くなりました（35歳以下：OR 1.38［1.11-1.71］；35歳以上：OR 1.73［1.34-2.24］）。P4濃度が1.0ng/mL未満については、いずれの年齢群においても、差を認めませんでした。

③ ランダム化比較試験
Yunhai Yu, et al. Reprod Biomed Online. 2020 Sep;41(3):395-401. doi: 10.1016/j.rbmo.2020.04.021.
PCOS女性を対象としたRCT の二次解析です。新鮮胚移植2,612周期、全胚凍結群2,525周期で比較検討した結果、トリガー日の血清P4値に関わらず凍結融解胚移植群の出生率が高くなりました。P4値 1.14ng/ml以上の出生率（52.7％vs. 37.3％、OR 1.88、95％CI 1.55-2.27、P = 7.89 × 10-11）、1.14ng/ml未満の出生率（53.3％ vs. 48.1％、OR 1.23、95％CI 1.08-1.41、P = 0.002）であり、共に凍結融解胚移植成績が高く、P4高値の方が差が大きくなりました。

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文責：川井清考（院長）

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