卵巣刺激前プロゲステロン上昇は新鮮胚移植成績に影響する(レトロスペクティブコホート2023)

卵巣刺激中の血中プロゲステロン上昇が新鮮胚移植の着床率に悪影響を与える原因はわかっていないことも多いですが、子宮内膜・胚間の非同期性や胚質低下が主な理由だろうとされています。トリガー値の血中プロゲステロンが 1.5 ng/mL 以上の場合は新鮮胚移植時の生殖医療成績が下がるとされていますが、それ以外の時の血中プロゲステロン上昇について議論された報告は認められません。こちらを調査した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

卵巣刺激中に血中プロゲステロン値が1.5ng/mL以上になった場合はトリガー時でなかったとしても新鮮胚移植の成績が下がることがわかりました。新鮮胚移植を行う場合は卵巣刺激時の血中プロゲステロン値を評価することは意味がありそうです。

≪論文紹介≫

Jenny S George, et al.  J Assist Reprod Genet. 2023 Apr 4.  doi: 10.1007/s10815-023-02786-z. 

2015年10月1日から2021年6月30日に新鮮胚移植をおこなった体外受精6,961周期を対象とし、トリガー前の血中プロゲステロン別にグループ分けし成績を比較検討したレトロスペクティブコホート研究です。卵巣刺激開始後7日目から採卵決定時までの血中プロゲステロン値<1.5ng/mL(低PR群)、血中プロゲステロン値≧1.5ng/mL(高PR群)としました。トリガー時の血中プロゲステロン値はTPRと別途定義しました。主な評価項目は生児獲得率、臨床妊娠率、着床率としています。
トリガーはhCG 5000IU、10000IU、デュアルトリガーの場合は40mgリュープロリドと1500IU hCGとしています。新鮮胚移植の黄体補充はhCGトリガーの場合はクリノン8%ゲルを採卵48時間後から、デュアルトリガーの場合は採卵48時間後からエストレイス6mg/日とクリノン8%ゲルを開始しました。高PR
群ではTPRが2 ng/mLは胚移植対象から除外しています。
結果:
比較対象となった症例数は高PR群1,568例(22.5%)、低PR群5,393例(77.5%)であり、新鮮胚移植に至った周期は高PR群416周期(11.1%)、、低PR群3,341周期(88.9%)でした。高PR群は低PR群と比較して、着床率(RR 0.75; 95% CI 0.64-0.88)、臨床妊娠率(aRR 0.74; 95% CI 0.64-0.87)、生児獲得率(aRR 0.71; 95% CI 0.59-0.85) が低くなりました。トリガー日のプロゲステロン値(TPR)で層別化すると、TPRが1.5ng/mL未満であっても、高PR群では低PR群と比較して着床率(16.8% vs. 23.3%)、臨床妊娠率(28.1% vs. 36.0%)、生児獲得率(22.8% vs. 28.9%)と成績の低下を認めました。

≪私見≫

この報告の新鮮胚は平均2個移植を行っていますし、体外受精年齢は36歳程度なので、やはり子宮内膜・胚間の非同期性が成績低下の原因なのでは?とされています。
この症例で面白いのは、TPRが1.5ng/mL未満で胚移植を実施した3,398症例のうち、57症例(約1.7%)は途中で一度、血中プロゲステロン値≧1.5ng/mLになり、下がっている点です。このような場合も胚移植時に注意が必要そうですね。アブストラクトにはトリガー日のプロゲステロン値(TPR)で層別化した場合も成績が下がるように書いてありますが、実は統計的には差がついていません。サジェスチョンとしては面白い注目点だと思っています。

文責:川井清考(院長)

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