外来診療 快適な毎日の排尿を目指して

はじめに

高齢者社会を迎え、日常の排尿障害によるADL低下、QOLが問題となっています。
たとえば、夜間頻尿による転倒により、圧迫骨折や大腿骨頚部骨折は著しくQOLを損ないます。
排尿障害を改善することにより、ADL、QOLスコアの改善が得られており、高齢者でも性生活の改善につながることも多く、積極的に排尿トラブルを改善することが重要と感じています。

男性編

男性は腎臓→尿管→膀胱→前立腺→尿道括約筋→尿道へと尿が排出されます。ここで、前立腺が排尿障害に関わる一つのポイントとなります。50才を超える頃より徐々に前立腺は腫大し、尿の通り道(尿道)を圧迫することにより、尿性低下や排尿開始遅延などの症状をおこします。徐々に膀胱の筋肉が鍛えられ膀胱の筋肥厚により、膀胱が伸びにくくなる(膀胱容量が減る)ことにより‘頻尿’となります。また、無秩序な筋肥厚は「尿をがまんできない」(尿意切迫感)症状となり、尿漏れ(尿失禁)を起こします。さらに進行すると、尿管がつまり水腎症となり腎不全で運ばれるケースも少なくありません。
日頃より膀胱に負担をかけないように、薬などの服用にてコントロールしていくことも重要ですが、高齢者となると多剤薬剤の服用による副作用も気になるところです。当科では「快適な毎日」を送れるような排尿管理をめざし、低侵襲性手術を提供しています。
TURP、HoLEP、CVPと三種類の手術方法をそれぞれの長所を生かし提供しています。

1. TURP(Transurethral Resection of Prostate:経尿道的前立腺切除術)

従来の標準手術法とされるループ状の電気メスを用いた内視鏡の手術です。以前は術中に使用する潅流液に非電解質溶液を使用する必要がありましたが、現在では潅流液に生理食塩水を使用することで、術中の低Na血症を減らすことができます。手術に熟達すると非常に大きな前立腺も手術可能となりますが、やや術中の出血量が多くなる傾向があります。従来から行われている手術だけあり、簡便で有用な手術法なので当院では主に前立腺体積の大きくない前立腺肥大症の方にTURPを行っています。

2. HoLEP(Holumium Laser Enucleation of the Prostate:ホルミウムレーザー前立腺核出術)

現在当院で主流となっている手術法です。前立腺の中で腫大した腺腫をレーザーでくり抜く内視鏡の手術法(核出といいます。)で、効率よく大きな腺腫も核出できます。TURPのように腺腫を切除するのでなく、周囲を核出するので、術中の出血が少なく輸血の可能性が少なくなります。前立腺体積が100mlを超えるような大きな前立腺に対しても手術可能です。前立腺を核出後、腺腫を細かく細断し体外に排出する必要があります(モーセレーション)が、非常に大きな前立腺の方はモーセレーションに時間がかかることがあります。

3. CVP(Contact Laser Vaporization of the Prostate:接触式レーザー前立腺蒸散術)

当院で最近導入した手術法です。尿道から挿入した内視鏡に光ファイバーを通し、肥大した前立腺の腺腫をレーザーにて溶かす(蒸散といいます。)ように手術を行います。従って、手術の後に前立腺組織の回収は不要になります。日本ではまだ、導入施設も少ないですが大きな特徴として、抗凝固剤(血液さらさら薬)を服用したまま、手術ができることにあります。今まで心臓疾患、脳疾患などで抗凝固剤を服用していると、一時的に抗凝固剤を中断して手術を行っていましたが、CVPは術中出血が少ないため、前立腺体積によっては抗凝固剤を中断せずに手術が可能となり、抗凝固剤の中断による合併症を減らすことが期待されています。

手術は、亀田京橋クリニックの泌尿器科医師が適応と判断した場合に、亀田総合病院にて行います。(亀田京橋クリニックでは、手術は行いません。)

合併症や副作用について

血尿

ほぼ全員にみられます。1か月以内は血尿が出やすいため、腹圧がかからないような生活が良いです。血尿の程度によっては再度手術室で内視鏡的に止血します。

発熱

多くの場合、術後2~3日間発熱します。時には38℃以上の高熱が出ることがありますが、通常、抗菌薬を予め投与しますので大事には至りません。

疼痛

多くの場合、術後2~3日間疼痛があります。このときには鎮痛剤を使い疼痛を和らげます。

逆行性射精

射精の際、精液が尿道から外に出ず膀胱の方に逆行する現象です。
経尿道的前立腺切除術(TURP)では50~80%の頻度でおこります。
精液は尿道からは出ませんが射精感は多くの場合保たれます。ドライオーガニズムと呼ばれます。

尿失禁、尿閉

血管系合併症(肺塞栓症、深部静脈血栓症など)

TURP、HoLEP、CVP手術の入院期間と費用について

通常、術後4~6日目頃に退院となりますが、 病状・術後経過により個々の患者さんで違いがあります。
入院・手術に伴う費用については健康保険が適用されます。

女性編

「骨盤臓器脱」は最近よく知られるようになってきました。その治療法も徐々に浸透し、骨盤底筋体操なども認知されてきまし、徐々にではありますが、骨盤臓器脱に対しては、ペッサリーの自己着脱による管理やフェミクッションと言った骨盤臓器脱治療を支えるサポートディバイスも充実しています。
専門病院では腹圧性尿失禁に対して尿道スリング手術(TOT手術・TVT手術)も一般的に普及してきています。骨盤臓器脱は排尿に密接に関わり、術後の尿失禁などケアが必要です。経腟的な自己組織を利用したNative tissue repair、経腟メッシュ手術、腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)など世界的標準治療も揃い、選択肢が広がっています。なかでもLSCは比較的本邦では新しく、徐々にいろいろな施設で施行することができるようになってきましたが、メッシュの感染などの注意が必要です。当科では子宮を温存するLSCを基本的にお奨めしています。もちろん子宮筋腫や内膜症での癒着など子宮の一部を切断した方がよい場合もあると思います。子宮を切除することにより、子宮内の管腔を通じ外界とつながりバイ菌が逆行性にメッシュに感染してしまうことがあります。子宮を残すことで、出血、止血デバイス(凝固、シーリングによる)による体内のやけどは、手術のストレスとなり術後の回復に影響する可能性があります。
また、他科合併症に対しても腹腔鏡下での手術で対応しています。膀胱全摘除術後の骨盤臓器脱、子宮摘除後の膀胱腟瘻や尿管腟瘻など術後の排尿トラブルに対しても対応可能です。

  1. 骨盤臓器脱で糖尿病や自己免疫疾患など細菌免疫が低下している方
  2. 婦人科、外科手術後の膀胱腟瘻、尿管膀胱腟瘻、あるいは骨盤臓器脱など
  3. メッシュが露出してしまった方

手術は、亀田京橋クリニックの泌尿器科医師が適応と判断した場合に、亀田総合病院にて行います。(亀田京橋クリニックでは、手術は行いません。)

合併症や副作用について

出血

輸血を要するような多量出血の可能性はほぼありませんが、術中や術後に予期せぬ出血があった場合は輸血を考慮します。

発熱

1,2日微熱が出ることがあります。ごくまれに38℃以上の高熱が出ることがありますが、通常、抗菌薬を予め投与しますので大事には至りません。

疼痛

多くの場合、術後2~3日間の疼痛で、鎮痛剤を使い疼痛を和らげます。体動時の痛みが軽くあります。

尿失禁

骨盤臓器脱がよくなると、立ち上がる、くしゃみ、咳などで尿漏れが起こることがあります。通常3ヶ月で改善しますが、生活に影響する場合尿道スリング手術などを検討します。
血管系合併症(肺塞栓症、深部静脈血栓症など):予期せぬ合併症の際は、他科の専門医と最善の治療を選択し治療に当たります。

経腟的な自己組織を利用したNative tissue repair、経腟メッシュ手術、腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)など入院期間と費用について

2泊3日あるいは3泊4日ですが、 病状・術後経過により個々の患者さんで違いがあります。
入院・手術に伴う費用については健康保険が適用されます。

泌尿器科部長 安倍 弘和

泌尿器科医師による『頻尿や尿失禁など泌尿器のお悩み』無料電話相談
(毎週木曜日)

中高年の男女問わず日常の排尿障害に悩んでいる方、年だからとあきらめている方に泌尿器科の医師がお悩みの症状から治療法を含む適切な情報を提供する無料電話相談を行います。

亀田総合病院(鴨川)

相談窓口開設日時 ◎毎週(木曜)午後12:00~13:00
対応者 泌尿器科医師
相談電話番号 04-7099-1323(直通)
※病気のことや治療方法、日常生活などに関する疑問点にお答えいたします。
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