Q：.睡眠は精液所見に影響しますか?
A.：シフト勤務は精液所見に影響します

≪今回ご紹介する論文≫

不妊クリニック通院中の男性におけるシフト勤務と睡眠の質が精液検査所見に及ぼす影響の評価
Evaluation of the effect of shift working and sleep quality on semen parameters in men attending infertility clinic
Andrologia. 2021 Sep;53(8):e14116. PMID: 33978248

十分な睡眠は健康的な1日を過ごすための第一歩です。当施設での男性不妊症外来でもいつも規則正しい生活を送ることをお願いしています。また、睡眠時間やシフト勤務の有無についてもお伺いしてアドバイスの参考にしています。
すでに川井院長のブログで睡眠と男性不妊症との関連について掲載されています。

• 睡眠時無呼吸症候群は男性不妊症になりやすい（論文紹介）
• 男性の睡眠時間の妊娠のしやすさ（論文紹介）
• 睡眠時無呼吸症候群は男性不妊症になりやすい（論文紹介）

あらためて3回にわたって、睡眠と精液所見(精子数、精子運動率など)との関連についての研究結果をご紹介しています(「睡眠と精液検査①」、「睡眠と精液検査②」) 。
今回は、シフト勤務(夜勤や交代勤務)と、睡眠の質、精液所見との関連性を検討した研究をご紹介します。

≪論文の要旨≫

不妊治療専門クリニックに通院する男性を対象に、シフト勤務が精液所見に及ぼす影響と睡眠の質の影響を評価することを目的とした研究です。
研究の対象となった患者さんは次のように2群に分けられています。シフト勤務者104名(グループ1）と非シフト勤務者116名（グループ2）です。精液検査所見、うつ・不安・ストレスのスコア(Depression Anxiety Stress Scale-21、Dass-21）、睡眠の質のスコア(Pittsburg Sleep Quality Index、PSQI）について、各グループを比較しました。
結果は次のようになっていました。シフト勤務者は非シフト勤務者に比べて、乏精子症や睡眠の質が低下している割合が高く、精子正常形態率が低い結果でした（それぞれP= 0.006、0.039、0.036）。また、睡眠時間と精子濃度には正の相関が、入眠までにかかる時間と総精子数には負の相関がみられました。年齢、総テストステロン値、DASS-21のストレススコア、喫煙、精索静脈瘤などの変数で補正した場合、シフト勤務の場合およびPSQIスコアが高い(睡眠の質が悪い)場合も精子数が減少していました（それぞれOR = 2.11、95% CI 1.03-4.34 および OR = 1.18、95% CI 1.01-1.39 ）。
この研究をまとめると次のようになります。不妊男性のシフト勤務者は精子正常形態率が低く、乏精子症になっていたり、睡眠の質が低下している割合が高くなっていました。シフト勤務者は睡眠の質が低いことから、シフト勤務がサーカディアンリズムに悪影響を及ぼしていると考えられます。

≪筆者の意見≫

当クリニックでは、男性パートナーの皆様に睡眠時間やシフト勤務についてお伺いして、アドバイスの参考にしています。シフト勤務はサーカディアンリズムを崩してしまうため、睡眠の質を悪化させてしまいます。また、シフト勤務は、代謝障害、心血管疾患、気分障害、男性生殖器の機能障害など、いくつかの健康上の結果と関連していることがわかっています。
一方で、シフト勤務と精液所見の関連性には相反する研究結果が出ています。もっと多くの症例で検討したEisenberg(Fertil Steril 2015;103:1271–7)の研究では、シフト勤務やローテーション勤務は精液所見との関連性はないと報告しています。しかしながら、Eisenbergの研究の対象となっている方は精液所見が良好で、精子数が非常に多く、今回紹介した研究の2倍もあり患者さんの背景因子がかなり異なっています。今回ご紹介した研究では、乏精子症や精子無力症の方が多く含まれていて、実際の不妊症治療の現場に近いものになっています。そのような方々の中で、シフト勤務者では乏精子症や睡眠の質が悪い人の割合が高く、精子正常形態率が非シフト勤務者に比べて低いということがわかりました。また、睡眠時間と精子濃度には正の相関が、入眠までの時間(睡眠潜時)と総精子数には負の相関があることが示されています。この研究では、非シフト勤務者は高齢で喫煙率が高かったのですが、それでもシフト勤務者の方で精液所見が悪い結果でした。
この手の研究では、対象が健常者であるか、男性不妊症の方であるかによって結果がことなることがあります。精液所見が悪い方にとってはシフト勤務が良くない影響を与えている可能性があることがこの研究から示唆されると思われます。普段患者さんをみていても、一定数の方が夜勤をしています。時間を調整して精液検査をして結果が悪い方の中には、夜勤明けでだいぶお疲れという方もいらっしゃいますので、夜勤は影響するという実感も持っています。そうは言っても不妊治療のために仕事を変えたりするほどではないと思います。
繰り返しになりますが、妊活や幸せな家庭を作る第一歩はご自身の健康です。シフト勤務の方は、シフト勤務でない方よりも一層の健康管理に努めていただきたいと思います。

文責：小宮顕(泌尿器科部長)

亀田メディカルセンターでは男性不妊外来を開設しております。
泌尿器科専門医・指導医、生殖医療専門医の小宮顕部長が担当します。
当院の「ホームページ/男性不妊とは」もご参照ください。

• 亀田IVFクリニック幕張　／　043-296-4103（予約専用）
  土曜日 午前/午後、火曜日 午後 （水曜 午前)
• 亀田京橋クリニック　／　03-3527-9201（予約センター）
  第2・第4 水曜日 午後
• 亀田総合病院(ARTセンター内)／ 04-7099-1111（予約センター）
  第2・第3 木曜日 午後

奥様とご一緒にいらしてください。

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

亀田IVFクリニック幕張