精液アレルギー症状について
「妊活のために夫婦生活を持つと、外陰部が腫れたり、痒みがでてしまいます。」外来を行っているとこのような訴えを聞くことがよくあります。私は皮膚科やアレルギーが専門ではないので、実際の臨床現場でどのように対処されているか把握していません。日本語・英語の文献も数多くないため、困っている夫婦の一助になれたらと思ってまとめてみました。
精子アレルギーは精漿由来の物質を抗原とした即時型アレルギー反応、すなわちⅠ型アレルギー反応です。1958年にオランダの婦人科医J.L.H. Speckenが初めて報告しています。初発年齢は20-30歳で、大多数はアトピー性皮膚炎既往がある女性で、40~50%が最初の性交時にアレルギー反応が起こるようです。報告されていないケースも多いと考えられていて発生率はわかっていません。
重要な診断基準は、通常の性交時には症状がでるのにコンドームを使用した性交で症状がでないことです。精漿に対する感作はプリックテスト(抗原溶液を針で傷つけた皮膚にたらして15 ~ 30分後に同部の腫れ・赤みの有無)、特異的IgE抗体検査(精漿とCan f 5に対するIgEを測定)することもあるようです。
なにより同様の症状が発症する性感染症などはルールアウトされていることが重要だと考えます。
症状は、局所的なもの(性交後すぐに起こり、外陰部の灼熱感、かゆみ、発赤および腫脹)と全身的なもの(血管浮腫を伴う全身性蕁麻疹、さらに高度のアナフィラキシー)に分けられます。精漿アレルギーの誘発物質として、前立腺特異抗原(PSA)などの典型的な精漿抗原と、食品・薬剤などが精漿に溶けた非典型的精漿抗原(ナッツアレルギー女性がナッツを食べた直後の男性と性交渉を持った場合や、抗生剤アレルギーの女性が抗生剤内服中の男性と性交渉を持った場合など)が考えられています。
精液アレルギーでも、様々なアプローチがありますから子供を諦める必要はありません。夫婦生活をもつことを前提に考えていくのであれば、腟内脱感作療法という方法があるようです。希釈した精漿を20分ごとに腟内に塗布し原精液での過敏性を減弱させていきます。脱感作療法からこれを72時間間隔で定期的に繰り返す必要があります。この時間間隔を超えると、耐容性が低下し、症状が再発する可能性があるとされています。ただ、なかなか大変なので実際に実施されることは、ほとんどなさそうです。
軽度の局所症状の場合は、抗ヒスタミン剤を性交1時間前に予防投与することの有効性の報告もあります。
そのほか、洗浄した調整精子で人工授精・体外受精を行うことも治療法の一つになります。ただし、過去には2回洗浄を行い密度勾配法で調整した人工授精でアナフィラキシーを起こした症例もあるので全身症状が元々ある女性には注意が必要かもしれません。
たくさんの患者様と触れていると、日々たくさんの学びがあります。ひとつひとつ咀嚼しながら患者様に情報提供することを続けていきたいと思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。
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