男性の睡眠時間の妊娠のしやすさ(論文紹介)
1日の睡眠時間が7〜9時間の人が最も健康被害が低いことが報告されています。睡眠時間が男性の生殖能力にどの程度影響するかはまだまだ分かっていませんが、テストステロンの低下や精子数の減少と関連するという報告もあります。
Pregnancy Study Online (PRESTO)という米国またはカナダ在住の21~45歳の女性、男性21歳以上を対象としたウェブベースの妊娠前コホート研究があり、この研究では、避妊や不妊治療をしていないカップルが参加でき、女性は8週間ごとに、最長12カ月間、妊娠状況を確認するための追跡調査票を提出します。そのなかの男性質問に「最近1カ月間、平均して毎晩何時間の睡眠をとりましたか?:回答選択:5時間未満、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間以上」があり、こちらから解析を行った男性の睡眠時間と妊娠のしやすさを評価した論文をご紹介いたします。
≪論文紹介≫
Lauren Anne Wise, et al.Fertil Steril. 2018.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2017.11.037
Pregnancy Online Study(PRESTO)を用いた男性の睡眠時間の妊娠のしやすさを検証しました。男性は前月の平均睡眠時間を報告しました。解析対象は、登録時に最大6周期まで妊娠を試みていた1,176組のカップルとしました。Proportional probabilities regression modelを用いて、潜在的交絡因子を調整した上で、予測妊娠可能性(FR)と95%信頼区間(CI)を推定しました。
結果:
平均睡眠時間が8時間と比較して、一晩の睡眠時間が6時間未満、6時間、7時間、9時間以上の場合の多変量調整後の予測妊娠可能性は、それぞれ0.62(95%CI 0.45-0.87)、1.06(95%CI 0.87-1.30)、0.97(95%CI 0.81-1.17)、0.73(95%CI 0.46-1.15)でした。短時間睡眠(1日6時間未満)と妊娠しやすさの関係は、夜勤や交代勤務をしていない男性(予測妊娠可能性 0.60、95%CI 0.41-0.88)と過去の男性不妊歴のない男性(予測妊娠可能性 0.62、95%CI 0.44-0.87)でも同様でした。
結論:
男性の睡眠時間の短さは、妊娠のしやすさと関連していましたが、睡眠障害との関連ははっきりしませんでした。
≪私見≫
短い睡眠時間は妊娠しやすさの低下と関連していました。睡眠障害と妊娠しやすさの関連ははっきりと結論づけられませんでした。今回の結果は、夜勤や交代勤務、不妊歴などが原因だと簡単にいえるものではなく、そのような環境を除外して検証しても同様に睡眠の短さが妊娠率の低下と関連していました。睡眠時無呼吸症候群になるリスクの改善をすると妊娠率の改善に寄与しそうという報告もありますが、睡眠時間自体を確保することも大事なのかもしれません。
ちなみに、私は皆に「コーヒーばかり飲んでるし、四六時中連絡返ってくるし、先生は睡眠時間短そうですね」といわれますが、睡眠時間は翌日の診療に影響を与えたくないので、学会発表や試験前以外は6時間以上とっています。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。