睡眠時無呼吸症候群は男性不妊症になりやすい(論文紹介)

睡眠時無呼吸症候群は、不妊症危険因子として言われていますが、男性不妊との関連について触れられた報告は数多くありません。今回、睡眠時無呼吸症候群が男性不妊の発症リスクを上げるかを調べた報告をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Jhuang YH, et al. JAMA Netw Open. 2021. DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2020.31846

不妊症男性4,607人と対照患者18,428人を対象としたこの大規模ケースコントロール研究では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群は不妊症になるリスクが1.24倍高くなることがわかりました。台湾の国民健康保険研究データベースであるLongitudinal Health Insurance Databaseからデータが収集されました。2000年1月1日から2013年12月31日までに、不妊症と診断され3回以上の外来受診または1回以上の入院をした男性患者を対象とし、年齢、性別、不妊症と診断された日付で、不妊症と診断されていない無作為に選んだ男性と1:4の傾向スコアマッチングにて解析をおこないました。
主要評価項目は睡眠時無呼吸症候群の危険因子としました。副次評価項目は、男性不妊リスクと睡眠時無呼吸症候群時間(1年未満(短期間隔)、1~5年未満(中期間隔)、5年以上(長期間隔))および睡眠時無呼吸症候群管理(睡眠時無呼吸症候群なし、CPAP、口蓋垂口蓋咽頭形成術、またはその両方)との関連です。
結果:
4,607名の男性不妊症患者(平均[SD]年齢、34.18[5.44]歳)と18,428名の対照患者(平均[SD]年齢、34.28[5.81]歳)を対象としました。多変量条件付きロジスティック回帰分析では、睡眠時無呼吸症候群は不妊に関連する独立した危険因子でした(調整オッズ比[OR]、1.24;95%CI、1.10-1.64;P=0.003)。絶対リスクは0.204(95%CI、0.092-0.391)でした。治療を受けていないグループの睡眠時無呼吸症候群患者では、睡眠時無呼吸症候群でない患者と比較して、不妊症の調整ORは1.80(95%CI、1.56-2.07;P < 0.001)でした。
結論:
睡眠時無呼吸症候群が男性不妊のリスクを高め、そのリスクは睡眠時無呼吸症候群時間と関連しているという仮説を支持するものでした。さらに、睡眠時無呼吸症候群の管理や治療は、不妊リスクの上昇とは無関係でした。

≪私見≫

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は男性不妊になるリスクが1.24倍高くなることがわかりました。
Palnitkarらは、睡眠時無呼吸症候群やその他の睡眠障害が、酸化ストレス、インスリン抵抗性、全身の炎症、生殖ホルモン分泌の異常を増加させることで、不妊に繋がる可能性を提唱しています。その他にも睡眠時無呼吸症候群がテストステロン低値に影響を与えるという報告もありますし、動物モデルでは睡眠時無呼吸症候群を模倣した慢性的な高頻度・間欠的低酸素状態が、中年マウスの男性の生殖能力と精巣の抗酸化能力を低下させることが報告されています。
この報告では診断病名から検討した報告です。閉塞性睡眠時無呼吸症候群になる肥満や生活習慣などが男性不妊の原因となり、男性不妊を引き起こしている可能性が考えられます。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療はもちろんのこと、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の誘因となる生活環境の改善が男性不妊解消の手段となるのではないでしょうか。
ちなみに解析をみていて男性不妊リスクが2倍以上になっていたリスク項目は糖尿病、高脂血症、虚血性心疾患、慢性腎疾患、COPD、肥満、不安障害、うつ病でした。

文責:川井清考(院長)

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