睡眠と精液検査①(論文紹介)
Q.睡眠は精液所見に影響しますか?
A.「睡眠時間」は精液所見に影響します
≪今回ご紹介する論文≫
睡眠時間と精液の質の関連性は逆U字型: 中国重慶市における縦断的観察研究(MARHCS)
Sleep. 2016 Jan 1;39(1):79-86. PMID: 26350472
健康的な睡眠はよい一日を過ごすための第一歩です。当施設での男性不妊症外来でもいつも規則正しい生活を送ることをアドバイスしています。
すでに川井院長のブログで睡眠と男性不妊症との関連について掲載されています。
あらためて3回にわたって、睡眠と精液所見(精子数、精子運動率など)との関連についての研究結果をご紹介しています。
今回は、精液所見がよくなる最適な睡眠時間はどのくらいか、という研究の紹介です。短くても長くてもいけないという内容になっています。
≪論文の概要≫
この研究の目的は、睡眠時間と精液所見および性ホルモン値との関連性を検討することです。
対象と方法は次のようになっています。中国重慶市の男性の大学生を対象としたコホート研究です。2013年に合計796名が研究に参加し、2014年にはそのうち656名(82.4%)がフォローアップされています。毎回、精液と血液サンプルを採取して、精液検査を施行し、性ホルモン値の測定を行いました。睡眠時間は、改訂版ミュンヘンクロノタイプ質問紙(Munich Chrono Type Questionnaire: MCTQ)で評価しました。2014年のフォローアップの際には、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index、PSQI)を用いて睡眠の質を評価しました。
結果は以下の通りです。睡眠時間と精液パラメータのうち精液量と総精子数との間には「逆U字型(山形型)」の関連性を認めました。1日7.0-7.5時間の睡眠が最も精液所見が良好でした。この時間をピークに睡眠時間が長くなっても短くなっても、時間依存的に精液所見が低下していました(それぞれP=0.002およびP=0.001)。つまり、睡眠時間が短くなるほど、あるいは睡眠時間が長くなるほど精液所見が悪くなっていました。睡眠時間が9.0時間を超えると、精液量は21.5%(95%CI 9.2~32.2)、総精子数は39.4%(95%CI 23.3~52.1)減少していました。また、6.5時間以下の睡眠では精液量は4.6%(95%CI -10.5~22.3)、精液量は25.7%(95%CI -1.2~60.1)減少していました。2013年の研究参加の時点から2014年になって睡眠時間を1日7.0~7.5時間に変更した人では、この2つの精液のパラメータの増加が認められました。U字型の関連はPSQIの点数からは独立していました。男性1,346人の別の集団で検証した結果でも同様の結果が確認されました。一方、睡眠時間と性ホルモン値との関連はありませんでした。
結論としては、睡眠不足あるいは過度の睡眠のいずれでも精液の質を低下させる可能性があるということになります。研究者は、この結果を検証するために、さらなる研究が必要であるとしています。
≪筆者の意見≫
現代人の睡眠時間は50~100年前に比べて1~2時間短くなっているそうです。また、睡眠時間が6時間未満あるいは9時間を超える方は1/3程度になっているとのことです。睡眠不足でも睡眠が長すぎても、認知機能障害や冠動脈疾患、消化管疾患の原因となるとされています。
睡眠時間と精液所見の関連性についての知見はまだ確固たるものではありません。日々の診療でも睡眠時間について聴取してアドバイスの参考にしています。当院の男性不妊外来を受診した方の6割以上で睡眠時間が短く、6時間半未満でした。どのくらいの睡眠が良いですかとの質問もよくあり、7時間くらいはとった方が良いですとお答えしています。この研究でもやはり7時間から7時間半が良いとしています。この研究のすばらしい点のひとつは、2014年のフォローアップのデータでは、睡眠時間が最適な時間に近づくことにより、精液所見が改善していたことです。健常人とは言え学生さんが対象なので、不健康な生活を送っている方も多かったのかもしれませんので、この研究に参加することで良い影響が出ていたようです。私も睡眠時間が6時間弱なので、あらためて十分な睡眠をとろうと思いました。
今回の研究ではPSQIのデータはあまり示されていません。PSQIは単変量解析では睡眠時間や精液検査のパラメータと関連していたようですが、補正すると意義のあるデータにはなりませんでした。PSQIと精液検査所見についての研究は次のブログ(睡眠と精液検査②)でのご紹介としています。
文責:小宮顕(医師)
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泌尿器科専門医・指導医、生殖医療専門医の小宮顕部長が担当します。
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