AIを用いた人工授精の妊娠率に影響する因子解析(論文紹介)
体外受精を検討されている方の中には「人工授精なんてやっても、あまり意味がないんじゃないですか?」と仰る患者様がいらっしゃいます。
当院の成績(2020年1-12月)ではタイミング/人工授精/体外受精の周期別妊娠率が、7.2%/9.1%/48.1%となっています。タイミングで妊娠しない方の中でも一定の割合で人工授精治療後に妊娠卒業されていますし、私は適応があれば複数回人工授精を行うべきだと考えています。ただ、人工授精で妊娠される方はどのような方なのかは患者様に人工授精をすすめる上でポイントになってきます。
今回紹介する論文は機械学習を用いていくつかの予測モデルを構築し、人工授精の臨床結果を予測するために最適なモデルを選択することを目的とした論文です。
どのモデルが人工授精の妊娠率予測に役立つかも大事ですが、抽出された因子は治療の参考になると考えています。文尾に過去のブログ(当院の結果ではなく、論文紹介を中心に)を案内しています。
≪論文紹介≫
Nejc Kozar ら.J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02224-y
方法:
単一施設で2017年-2020年にクエン酸クロミフェン50-150mg/day(N = 356)、レトロゾール(N = 43)、またはゴナドトロピン37.5単位/day(N = 613)で刺激した1029件(413カップル)のIUI手技の臨床データ(患者のベースライン特性,精子の質,ホルモン状態,サイクルデータ)を用いて,臨床的な妊娠を予測するいくつかのモデルを構築した。クエン酸クロミフェンは卵胞径20mm、ゴナドトロピンは卵胞径17mmに発育してからrecombinant-hCGにて排卵誘発し24-36時間後に人工授精をしました。発育卵胞数は14mm以上を3個以下と設定しています。精液サンプルは、2~3日の禁欲期間を経て、IUIの4時間前に男性パートナーから採取しました。精子はswim-up法で調整しました。モデルの検証はANN、ランダムフォレスト、PLS、SVM、およびRのcaretパッケージを使用し行いました。
結果:
最も優れたモデルのうち,ランダムフォレストモデルは,AUCが0.66,感度が0.432,特異性が0.756でした。これに続いたのがPLSモデルで,感度0.459,特異度0.734となりました。複数の臨床データの予測カットオフ値を調整すると、臨床的妊娠の可能性が2倍高い結果を導きました。
結論:
ランダムフォレストモデルとPLSモデルは、IUIの臨床結果を予測する上で優れた性能を示しました。
≪私見≫
この論文では下記の項目が機械学習の中で人工授精結果に影響を与える因子として抽出されています。不妊治療の複数因子は多重共線性のため通常のモデルだと関係する因子の中に隠れてしまう可能性があるので、今後はAI学習を用いて様々なキーファクターを見つめ直す必要があるのかもしれません。
Ramdom forest法 | Partial least squares(PLS)法 | ||
変数 | Importance | 変数 | Importance |
全精子数 運動精子濃度 運動精子数 不妊期間 BMI 最大卵胞サイズ 精子濃度 >17mmの卵胞数 誘発日 精液量 |
100 84.23 78.62 77.24 76.4 72.49 71.4 69.35 67.42 66.65 |
運動精子濃度 >17mmの卵胞数 全精子数 運動精子数 CC投与量 刺激の種類 精子品質 精子濃度 誘発日 最大卵胞サイズ |
100 96.83 93.49 84.99 76.02 74.25 71.11 67.91 67.28 66.56 |
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文責:川井清考(院長)
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