人工授精の妊娠成績が10%を超える?

人工授精の成績が高いか低いかは患者さまに説明した時に患者さまの反応がわかれるところだと思います。当院は人工授精の妊娠成績を2施設とも追跡していますが7-10%の妊娠率です。人工授精の成績を改善させようと海外の論文を読むと妊娠率が10-20%の議論がされていることが多いため、スマートフォンから情報を取れる不妊患者さまの世代がこの数字をみた時に違和感を覚えるのではないかと思います。
海外において人工授精妊娠率が高い理由は、多胎率をそこまで意識せずに複数排卵(2個以上)をさせている部分が大きいと思います。最近、4個以上排卵した場合は海外でも人工授精中止の流れになっていますが、それでも日本に比べて圧倒的に多胎率が高い現状があります。
2009年、2011年ESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)に所属する国の参加施設が人工授精の成績を報告していますので2つの論文から国別の分娩率と多胎率をまとめてみました。
妊娠をしてから20%程度は流産をしますので、分娩率=妊娠率X0.8くらいだとご理解ください。下表をみると、改めて「国によって様々だなー」と国民性や医療の違いがあることを、ブログを書きながら感じていました。2009年のデータで振り返り全体をまとめると約16万周期での分娩率が8.3%、多胎率が11.1%ですから、簡単に言うと「妊娠率10%を越えるには2個以上排卵させ多胎率10%程度を覚悟する必要がある」ということになってしまいます。
日本では、多胎は周産期リスクが高く胎児への障害も出る可能性が高くなるため、多胎を避けることを念頭に人工授精を行います。当院でも多胎にならないように排卵個数に気を使って卵巣刺激を行なっていますが、開設当初より1.3%程度の多胎率があります。多胎率を上げないようにしながら妊娠率10%を目指せるように努めていきたいと思います。
Hum Reprod. 2013 DOI: 10.1093/humrep/det278
Hum Reprod. 2016 DOI: 10.1093/humrep/dev319

  2011年 2009年
  分娩率 多胎率 分娩率 多胎率
ベラルーシ 9.30% 2.70%    
ベルギー 5.60% 4%    
ブルガリア 5.60% 6.20% 6.70% 23.70%
デンマーク 12.60% 12.20%    
エストニア 10.30% 11.80%    
フィンランド 8.70% 4.70% 9.40% 9.40%
フランス 9.50% 11.40% 9.50% 10.50%
ギリシャ 6.30% 12.70% 16.90% 5.60%
アイルランド 9.40% 11.10% 9.10% 8%
イタリア 6.30% 9.50% 6.30% 11%
カザフスタン 1.30% 30% 6.60% 5.40%
モルドバ 12.50% 0% 14% 8.30%
モンテネグロ 10.50% 8.70% 12.50% 0%
ノルウェー 12.90% 16.10% 7.50% 16.70%
ポーランド 7.60% 7.70%    
ポルトガル 9.00% 12.50% 9.80% 15.20%
ルーマニア 6.50% 10.70% 1.50% 5%
ロシア 11.70% 7.00% 11.30% 10.30%
スロベニア 8.30% 9.20% 9.40% 11.30%
スペイン 7.30% 13.00% 7.20% 13.90%
ウクライナ 14.10% 8.80% 16.40% 9.10%
クロアチア     5.00% 5.70%

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。


新型コロナウィルスも第1波は収束し、2020/5/18生殖医学会からも不妊治療の再開の考慮を示唆する声明が出ました。当院でも一般不妊治療の患者さまの半数以上が治療を延期されておりましたが、今後、人工授精に進もうかと思っている方も多いのではないかと思い、このあとのブログは複数回にわたり「人工授精」を取り上げてみたいと思います。