当院の媒精基準について(2021年5月現在:医師の観点から)

当院の媒精基準について(2021年5月現在:培養室の観点から)で、当院の平岡培養士がブログを書きました。2020年度の当院の培養成績は、媒精の正常受精率 72.9%、顕微授精 81.3%でしたが、私が2013年度に亀田総合病院に赴任した際は、共に70%を切っていたので、培養士たちの日々の努力の賜物だと思いますし、論文ベースの一般論とは別個に、それぞれのクリニックベースの成績を管理することの大切さを感じています。では、「なぜ受精成績があがったのか?」ですが、①男性不妊が以前より周知されてきたこと、②精液検査がより細かい部分まで評価できるようになってきたこと、が理由だと思っています。
2020年の体外受精の受精方法は媒精(IVF):split(IVF+ICSIの併用):顕微授精(ICSI)=36% : 25% : 39%でしたが、今後も媒精による受精障害をできる限り事前に回避しながら無駄な顕微授精を削減することを目標として、媒精の正常受精率 75%、顕微授精 85%という未知の目標に到達できるよう努めたいと思います。

媒精とは、調整した精子を、卵子の入った培養液に注入します。媒精精子濃度は、培養液中の精子濃度が5-20万/mlになるように調整します。媒精精子濃度が低いと受精率の低下をきたす可能性がある一方、濃度が高いと培養環境の悪化につながり多精子受精率も高くなる懸念があります。クリニックにより精子の調整方法や媒精時間などが様々であるため一定の基準が設けられていません。

当院では下記の基準(精液調整後の総運動精子数)がベースです。
・10万未満 → 媒精出来ない(媒精不可)
・10-49万 → 媒精出来るがお勧めしない(媒精困難)
・50万以上 → 媒精出来る(媒精可能)

ただし、人工授精時の調整後運動率の状況や精子DNA fragmentation値により事前に男性不妊外来(泌尿器科の生殖医療専門医の診察)にかかっていただいたり、精子調整後の総運動精子数が十分あったとしても運動率が低い場合には一部ICSIを勧めたり提案させていただくようにしています。
運動率が異常に低いけれど、精液量・濃度が十分高いので大丈夫!ということは決してないと思っています。やはり調整前と調整後の精子運動率は当院のデータでも相関しており、様々な角度から男性側も不妊原因を眺め直す必要があると思っています。個別にご相談ください。

 

~関連ブログ~
媒精
媒精と顕微授精の違い(メリット・デメリット)
精子DNAダメージは精液検査のどの項目と一致するの?(論文紹介)
精液所見に異常がないICSIの適応は?(ASRMの専門家委員会の推奨)

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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