精子DNAダメージは精液検査のどの項目と一致するの?(論文紹介)

精巣の精子形成の間に一本鎖および二本鎖DNA切断が行われ、減数分裂の間にクロスオーバーが生じ、その後、ヒストンがプロタミンで置換されることによってDNAの圧縮が可能になります。その後、二本鎖DNA切断は一部の精子では修正されるとされています。そのまま断片化された状態が大量に存在するとアポトーシスやミトコンドリア膜電位の機能不全と相関しており、精子の運動性や形態学などの精液所見と負の相関を示しているとされています。いくつかの研究では、精子クロマチンの断片化は部分的には卵子によって修復されますが、体外受精の臨床成績に悪影響を及ぼす可能性も示されています。
精子DNAダメージ(断片化)を見る検査はTUNEL法、COMET法、SCD法、SCSA法、DNAラダー法、およびDNAブレーク検出FISH法などいくつかの方法が文献に報告されています。通常は体外受精の際に使う精液とは異なる精液を用いて検査を事前に行います。現在のところ、DNA断片化を調べる検査を行った精子を実際の受精に用いることができないので採卵当日に状況を知ることにメリットがないからです。
しかしながら、今回の報告は採卵当日の精子を用いて、精液所見とDNA断片化率を検証しています。

Ferrigno Aら. J Assist Reprod Genet. 2021 DOI: 10.1007/s10815-021-02080-w.

≪論文紹介≫

顕微授精を受けた患者の精子検査とDNAフラグメンテーション(DFI)との相関関係を、生殖成績の予測パラメータとして評価することを目的に調査しました。
125人の不妊患者を対象に後方視的に研究を行いました。精子は禁欲期間48時間から7日以内の体外受精当日に使うswim up後の精子を解析に用いました。患者ごとに少なくとも250個の精子のTUNELアッセイと精子画像解析ソフトウェアを用いて精子DFI(15%)を基準としてグループA(15%未満:65名)、グループB(15%以上:60名)に分け検証しました。

結果:

精液の運動率、濃度とはDFIは統計的差がないことが示されました。
その中では、形態異常精子がDNA損傷を示唆する候補であることがわかりました(p<0.001)。グループA(15%未満:65名)、グループB(15%以上:60名)で比較すると、形態的に正常な精子のうちでもDNAが断片化している精子の割合が増加していることがわかりました。具体的にはグループAでは全体のDFIは精子形態異常精子のDFIと相関(全体DFI:9.74%、正常精子DFI:1.0%。形態異常精子:21.0%)し、グループBでは全体のDFIは精子形態異常精子と正常精子両方のDFIと相関(全体DFI:22.21%、正常精子DFI:8.0%。形態異常精子:48.0%)しました。

結論:

正常形態精子のなかでのDNAダメージ割合を示す結果となり、胚培養士が精子を選択するリスク評価になり得ると考えられます。

≪私見≫

国内では精子DNAダメージ検査はSCSA法かSCD法が主流となっています。
この論文では、より精度が高いとされているTUNEL法を用いた報告です。

ヒトのDNA断片化率が高い場合の臨床成績との関連は、以下のように様々な報告があります。
①媒精の妊娠率の有意な低下と関連しているが、ICSIの妊娠率の低下とは関連していないという報告(Li Zら.2006)
②媒精、ICSIともに低下するというメタアナリシス(Collins JAら. 2008)
③媒精、ICSIともに精駅に影響をあたえないというメタアナリシス(Evenson Dら. 2006)
ただし、最近の流れとして2020年12月に出たばかりのアメリカ生殖医学会の男性不妊ガイドラインでもDFIが掲載されたように(ブログ紹介:男性不妊の診断・治療ガイドライン(AUA/ASRM編:2020年):診断/イメージング(2020年12月15日))、今後は精液検査と異なる独立因子として測定することが一般的になってくるのではないかと考えています。

文責:川井清考(院長)

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