培養環境(加湿型とドライ型について)

受精卵を培養するインキュベーターには加湿型とドライ型の2タイプあります。今回は加湿型とドライ型の特徴・長所・短所等についてお話したいと思います。

≪湿度≫

加湿型:ほぼ100%
ドライ型:30-60%(室内の湿度と同じ)
加湿型とドライ型の一番の違いは庫内の湿度です。一般的に加湿型は庫内に水が入ったバットが置かれており、庫内は加温されているため、湿度は飽和状態、すなわち、ほぼ100%という状態になっています。一方、ドライ型インキュベーターは庫内に加湿のための水はないため、インキュベーターを設置している室内の湿度と同じです。


≪カビの発生≫

加湿型:あり
ドライ型:なし
加湿型の庫内は高温多湿な環境なのでカビが発生し易く、定期的な清掃が必要となります。ドライ型は庫内が乾燥している環境なので、基本的にカビの発生はなく衛生的でメンテナンスが楽です。


≪培養液浸透圧の変化≫

加湿型:なし
ドライ型:あり
受精卵を育てる培養液は、乾燥による蒸発を防ぐため、培養液の滴(ドロップ)全体をミネラルオイル(別名:流動パラフィン)で覆います。加湿型とドライ型について一番議論になるのは、この培養液の蒸発による浸透圧の変化です。培養液はミネラルオイルで全体を覆われてはいますが、培養液の蒸発は起きます。加湿型は庫内湿度がほぼ100%なので培養液の蒸発は殆ど起きません。一方、ドライ型は庫内湿度が低く乾燥している分、加湿型に比べて培養液の蒸発する割合が高まります。水分が蒸発すると培養液の組成が変わり(濃度が濃くなり)浸透圧が上がります。ドライ型を使用する場合、この浸透圧の変化は避けることが出来ません。問題は、この浸透圧の変化が受精卵の培養に悪影響を与えないか?ということになります。これまでに多くの施設がドライ環境下で培養液の浸透圧変化を調べて報告しており、ドライ環境下では培養液の浸透圧の上昇は認められるものの、受精卵の発育に悪影響を与えない範囲内であると結論付けているものが殆どです。


≪培養成績の比較≫

これまでに多くの施設が加湿型とドライ型で培養したときの受精卵の培養成績を比較しており、ドライ型の培養成績が加湿型に比べて良好であると結論付けている発表が多く見受けられました。この結果だけを見るとドライ型の方がインキュベーターとして加湿型に比べて優れていると思われがちですが、本当にそうなのでしょうか?ドライ型が加湿型に比べて良好な培養成績であった要因の一つは、培養スペースの大小にあると考えています。2010年代、加湿型とドライ型の比較が盛んに行われていた当時、加湿型の培養スペースは広く、ドライ型は培養スペースが小さいというケースが殆どでした。
写真は同一メーカーが販売している加湿型とドライ型ですが、左側、加湿型の培養スペースは57リットルもあるのに対して、右側、ドライ型は0.3リットルしかありません。培養スペースが小さければ小さい程、受精卵をインキュベーターの中に入れてから、培養に適した環境に復帰するまでの時間は短くなります。比較に使用されたドライ型の培養スペースは小さいものが殆どなので、培養に適した環境までの復帰時間が短く受精卵の受ける負荷が軽減されたことで、ドライ型の方が加湿型に比べて良好な培養成績を示したのではないかと考えられます。


≪加湿型とドライ型、どっちがいいの?≫

このブログでは加湿型とドライ型について解説致しました。それぞれに一長一短があり、一概にどちらがいいとは言えません。重要なことは、いずれの機械を使うにせよ、一長一短を理解して、長所を最大限に、短所を最小限に抑えるよう使用することだと考えます。
当クリニックではドライ型のものを培養のメインに使用しております。ドライ型の短所は、培養に悪影響を与えないとは言え、培養液の蒸発による浸透圧の上昇です。
我々は培養液の量を増やすことで、蒸発の影響を最小限に抑えるよう対応しております。

今回は少し分かりづらい内容だったと思いますが、受精卵の培養環境について少しでも理解を深めて頂けたら幸いです。

文責:平岡謙一郎(培養室長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張