GnRHaトリガーのEFSの発症リスク(Reprod Med Biol. 2023)

GnRH負荷テストの反応性が調節卵巣刺激のGnRHaトリガー時の空胞(EFS: Empty follicle syndrome)を予測できるかどうかを調査した国内の報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

GnRH負荷テストの LH 30 分値は GnRHaにて排卵誘発を行なったGnRHアンタゴニスト法のEFSリスクを予測できませんでした。
EFS の独立危険因子は、AFC、基礎 LH、卵巣刺激期間の日数でした。

≪論文紹介≫

Daichi Inoue, et al. Reprod Med Biol. 2023 Dec 9;22(1):e12553. doi: 10.1002/rmb2.12553.

① 2016年から2018年に行ったGnRH負荷テスト3,765例を用いて国内生殖年齢女性の負荷試験のレファレンスを作成しました。
② 2016年から2019年にGnRHaにて排卵誘発を行なったGnRHアンタゴニスト法5282周期(回収卵あり5247周期、なし35周期)を多変量ロジスティック解析によりEFSのリスク因子を推定しました。
結果:
① GnRH負荷テスト
中央値36歳(32-39歳)BMI 21.5(18.0-40.0)
LH basal 5.2(95パーセンタイル;1.3-12.6)mIU/mL
LH 30min 22.0(6.8-57.1)mIU/mL
FSH basal 7.3(3.0-20.5)mIU/mL
FSH 30min 11.5(5.1-30.4)mIU/mL
FSH/LH basal ratio 1.5(0.6-4.1)
② EFSの独立した危険因子
AFC(調整オッズ比;0.94、95%CI;0.89-0.99)cut-off: 8
LH basal(0.78、0.66-0.90)cut-off: 5.0
卵巣刺激期間日数(1.41、1.21-1.60)cut-off: 16
GnRH 検査の LH 30 分値は EFS を予測しなかった。EFS の独立した危険因子は、AFC、基礎 LH、および卵巣刺激期間の日数でした。

≪私見≫

この論文の面白いところはLH trigger LH basalが低いと回収卵が増えている点です。回収卵子数中はLH<1.5、1.5-12.6、12.6<mIU/mLでそれぞれ16、15、10.5個でした。
LH に関しては、卵胞発育、卵子成熟、排卵の過程において生物学的に最適な LH windowがあるのではないかと提唱されています。
LHが低いと、顆粒膜細胞および卵丘細胞のパラクリン制御、卵胞アンドロゲン/エストロゲン産生および卵成熟・卵胞発育・排卵が抑制される可能性があります。
LHが高いと、顆粒膜細胞の増殖低下、卵胞閉鎖、卵胞の早期黄体化などの発育障害をもたらす可能性があります。

彼らはLH 30minが空胞の予測因子とならなかった理由としてサージのでる時間も関係するのではないかとしています。

  • GnRHアゴニストにより誘発されるLHサージは24~36時間持続し、4時間後に短いピークがあり、その後20時間かけて長く減少する。Itskovitz J, et al. Fertil Steril. 1991; 56: 213–220.
    Itskovitz J, et al. Fertil Steril. 1991; 56: 213–220.
  • 1878 例でGnRHアゴニストによる誘発後、10.8±2.0 時間後の LH 濃度は 59.6±36.9mIU/mLItskovitz J, et al. Fertil Steril. 1991; 56: 213–220.
    Chang FE, et al. Fertil Steril. 2016; 106: 1093–1100.

今回の多変量解析は単変量解析でリスクと判断されたAFC(OR0.91、95% CI 0.87-0.97、AUC=0.71)、LH basal(0.72、0.61-0.81、<0.001、0.79)、卵巣刺激周期のE2 basal(0. 95、0.93-0.97、<0.001、0.70)、卵巣刺激周期のLH basal(0.48、0.41-0.59、<0.001、0.77)、卵巣刺激期間(1.46、1.29-1.62、<0.001、0.75)から判断しています。EFSの症例数が少ないので単変量解析でリスク因子を極力絞った形での多変量解析となっています。

国内生殖年齢女性のGnRH負荷試験のリファレンスはとても参考になるデータだと思います。
採卵時の空胞・変性卵・未熟卵のみの割合(当院からの報告)
採卵時の空胞は加齢や卵胞発育数と関係するの?(論文紹介)
空胞化症候群の一部の症例には透明帯異常疾患?(論文紹介)
採卵時回収卵なかった場合の追加人工授精は無益(Reprod Biomed Online 2014)

文責:川井清考(院長)

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