採卵時の空胞・変性卵・未熟卵のみの割合(当院からの報告)
体外受精をされる卵子数が少ない女性にとっては、空胞であったときのショックは大きい結果だと思います。空胞化症候群(EFS: Empty Follicle syndrome)については、遺伝や周期特有のgenuine EFSと卵巣刺激やトリガーが上手く作用しなかったり、採卵する時期が異なっていることによって起きるfalse EFSがあるよという議論は数多くされてきましたが、実際の臨床現場の発生率がどの程度かはわかっていそうで分かっていませんでした。
医療者として、患者様に適した医療を提供しようと思っても空胞であることが一定数あることから、患者様に適した情報を届けたいと思い当院でデータを報告しました。古い概念も再考でしたので時間がかかりましたが形になりましたのでご報告いたします。
≪ポイント≫
採卵時の空胞・変性卵・未熟卵のみの割合は採卵を行う周期の胞状卵胞数、卵巣刺激をおこなった後の発育卵胞数と強く相関することがわかりました。
≪論文紹介≫
Junichiro Mitsui, et al. Clin. Exp. Obstet. Gynecol. 2023; 50(4): 80 doi: 10.31083/j.ceog5004080
2つの生殖医療クリニックで2015年1月から2020年11月に採卵を実施した1,148症例2,342周期の空胞・変性卵・未熟卵のみの割合を後方視的に検討しました。91周期を臨床的EFS(空胞・変性卵・未熟卵のみ)、2,251周期を臨床的non-EFS(培養可能な卵子回収あり)に分類しました。臨床的EFS発生率はそれぞれ3.9%でした。臨床的EFS群の平均年齢は臨床的non-EFS群より高くなりました(40.3±3.4歳 vs. 37.9±4.5歳、p < 0.001)。臨床的EFS群と臨床的non-EFS群のBMIに差は認めませんでした(21.7 ± 3.3 vs. 22.0 ± 3.5, p = 0.52)。AMH、胞状卵胞数(AFC)、発育卵胞数は、臨床的EFS群が臨床的non-EFS群より低くありました(それぞれ、1.0±1.2 ng/mL vs 2.7±2.5 ng/mL, p < 0.001; 2.9±2.2 vs 8.5±6.3, p < 0.001; 1.9±1.4 vs 6.0±4.1, p < 0.001 )。ただし、ロジスティック回帰分析では、年齢とAMHに差は認められませんでした。AFCと発育卵胞数は、多変量解析でも臨床的EFS群が臨床的non-EFS群より有意に低くありました(OR, 1.301; 95% CI , 1.138-1.503; p < 0.05 および OR, 1.832; 95% CI, 1.488-2.3; p < 0.05)。採卵日決定日の発育卵胞数別の臨床的EFS発生率は、1個、2個、3個、4個でそれぞれ21.2%、7.8%、2.7%、1.2%でした。
≪私見≫
この報告は、どのように空胞化症候群がおこっているかという生物学的見地より、患者様が臨床的に受精に迎える卵子がとれるかどうかに焦点をあててまとめました。当たり前の報告ですが、一つでも卵巣刺激をして発育卵胞を増やせば培養可能卵子が獲得できる割合が増えます。卵巣予備能が低下している群でも同様の傾向でした。
東京医科歯科大学産婦人科 光井潤一郎先生がデータを整理しまとめていただきました。ご協力いただいた東京医科歯科大学 石川智則先生、東京労災病院 太田邦明先生、H.U.グループ中央研究所 山下英俊様に改めて感謝申し上げます。
文責:川井清考(院長)
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