卵巣刺激低反応群では年齢・回収卵子数どっちが重要?

卵巣刺激低反応群(Bologna/POSEIDON)の正常胚が含まれている割合を比較では、Bologna基準とPOSEIDON基準で予測される卵巣応答低下(POR)と、少なくとも1個の正常胚を獲得できる割合はI群>>II群>III群>IV群>Bologna基準PORの順に低下していくことがわかりました。過去の報告も踏まえて見ていくと結論はでていません。
キーとなる報告をご紹介させていただきます

⚫︎回収卵子数が年齢(42歳まで)なら有利という報告(PGT介入なし)
2015年から2017年の3生殖医療機関での9,073名のレトロスペクティブ・コホート研究では、累積生児獲得率はPOSEIDON群POR女性では非POR女性に比べて低くなりました。(33.7% vs 50.6%;P < 0.001)
Ia 群(n = 212): 27.8%, Ib群 (n = 1785): 47.8%
IIa 群(n=293): 14.0%, IIb 群(n=1275): 30.5%
a群は4個未満の回収卵、b群は4-9個の回収卵
III群(n=245): 29.4%,  IV群(n=623): 12.5%.

女性年齢、有効胚数、胚移植可能周期数、回収卵子数、不妊期間、BMIに累積生児獲得率が依存していました。
若年層は31歳前後、高齢層は38-39歳です。回収MII卵子は2-5個での症例で検討しています。

Sandro C Esteves, et al.  Hum Reprod. 2021 Jul 19;36(8):2157-2169. doi: 10.1093/humrep/deab152.

 

⚫︎回収卵子数が年齢(40歳未満)なら有利という報告(PGT介入あり)
2014年12月から2020年6月までの単一医療施設で傾向スコアマッチングにて異数性率を検討したレトロスペクティブ・コホート研究です。
Bologna/POSEIDONを用いない40歳未満で、AFC、AMH、FSHに基づいて決定した卵巣予備能低下(DOR:AMH 1.1ng/mL)と、回収卵子数が 5 個以下(POR)としました。
DORまたはPORと診断された若い女性は、胚盤胞の異数性率や胚移植あたりの出生率が同等でした。周期あたりで移植できる正常胚がない割合はDOR または POR患者では増えるため、妊娠予後に影響を与えている因子は卵子の質ではなく数であることがわかりました。
この報告は平均36歳で、回収MII卵子 DOR群は7.8個、nonDOR群は14.3個の比較検討です。

Yuval Fouks, et al. Fertil Steril. 2022 Jul 9;S0015-0282(22)00386-7. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.06.008.
若い女性の卵巣予備能低下や卵巣反応不良は卵の質に影響を与える?(論文紹介)

⚫︎若年が有利という報告(PGT介入なし)
2014年1月から2017年1月までの新鮮胚移植+その後の凍結胚移植を行った18455周期を対象とした単一施設でのレトロスペクティブ・コホート研究では、若年で採卵したことがないAFC 5個以上の群>若年で採卵したことがありAFC 5個以上あり、前回10個以上回収卵子があった群>I群>III群>II群>IV群とし、年齢依存性に累積生児獲得率が変化するとしました。
若年層は30歳前後、高齢層は39-40歳です。回収卵子数はI群 7.4個、 II群5.1個、III群 4.3個、IV群 2.9個、若年で採卵したことがありAFC 5個以上あり前回10個以上回収卵子があった群 12.6個、若年で採卵したことがないAFC 5個以上の群 12.3個でした。

Wenhao Shi, et al.  Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Jun 26;10:409.  doi: 10.3389/fendo.2019.00409.

⚫︎若年が有利という報告(PGT介入あり)
2013年から2020年までの単一医療施設で1269体外受精周期3016個胚盤胞(PGT)で異数性率を検討したレトロスペクティブ・コホート研究では、I群、II群、III群、IV群の胚盤胞数あたりの正常胚率は57.2%, 34.9%, 52.4%, 26.2% (P < 0.001) である。少なくとも一つの胚盤胞をもつ割合も副次評価項目で評価されており、II群/IV群はI群/III群よりも低くなっていました。
若年層は31歳前後、高齢層は39歳前後です。

  I群(n=244) II群(n=454) III群(n=96) IV群(n=475)
平均MII数 6.31 6.05 5.93 4.47
生検あたりの
正常胚率
57.2% 34.9% 52.4% 26.2%
周期あたり
0正常胚
18.4%周期 44.9%周期 18.8%周期 61.7%周期
周期あたり
1正常胚
28.7%周期 36.1%周期 38.5%周期 27.2%周期
周期あたり
2正常胚以上
52.9%周期 18.9%周期 42.7%周期 11.2%周期

 

Luo M, et al. Reprod Biomed Online. 2022 Feb;44(2):247-253.  doi: 10.1016/j.rbmo.2021.09.006.

≪私見≫
年齢なのか、卵巣予備能なのか?という議論は、論文を書くために対象とする設定をどのように設定するかによって変わってきているというのが事実だと感じています。つまり、体外受精の生児獲得には年齢と回収卵子数共に卵巣予備能不良群でもキーファクターであることがわかります。

昨日取り上げた報告(https://medical.kameda.com/ivf/blog/post_955.html)と合わせて、そのほかにもブログで複数取り上げていますので参考になさってください。

⚫︎POSEIDON基準
- I群(若年者、予期せぬPOR)
< 35歳未満、AMH≧1.2ng/mL or AFC≧5だが、前周期MII回収卵子数が10個未満
- II群(高齢、予期せぬPOR)
35歳以上、AMH≧1.2ng/mL or AFC≧5だが、前周期MII回収卵子数が10個未満
- III群(若年層、予想されるPOR)
< 35歳未満、AMH<1.2ng/mL or AFC<5
- IV群(高齢、予想POR)
35歳以上、AMH<1.2ng/mL or AFC<5
⚫︎Bologna基準
(3基準のうち2つ以上、最大ゴナドトロピン投与によるキャンセルサイクルが過去2回あること):
- 40歳以上、AMH < 0.5 - 1.1 ng/mL もしくは AFC  5 – 7個未満、前周期回収MII卵が4個未満

文責:川井清考(院長)

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