35歳以上で卵巣機能が保たれているのに回収卵子が少ない場合は?

卵巣機能が保たれているのに標準的な卵巣刺激(FSH 150単位を連日)を行い卵子が数多く取れない群はPOSEIDONグループ2に該当します。35歳以上の不妊女性で十分な卵巣予備能(AFC≧5、AMH≧1.2 ng/ml)が保たれているのに、9個以下の回収卵子数の場合をさします。この群は3回まで採卵を繰り返すと累積出生率が37.72-53.67%まで増加することが期待されています(卵巣刺激低反応群(POSEIDON1-4群)での分娩にたどりつく割合(論文紹介))。
この群は臨床の場ではよく遭遇します。2回目以降にどのような卵巣刺激を提示するかが大事になってきます。
Sesh Kamal Sunkara ら.Front Endocrinol (Lausanne). 2019 DOI:10.3389/fendo.2020.00105

論文での示唆を念頭に私たちの対策も簡単に記載させていただきます。

基本的な考え方はPOSEIDONグループ1と同様です(若くて卵巣機能が保たれているのに回収卵子が少ない場合は?(論文紹介))。

一般論としてロング法はショート法に比べて高い回収卵子数を認め、ロング法とアンタゴニスト法は同等の有効性とされています(海外ではクロミッドHMGなどのマイルド刺激は対象からはずれている論文がほとんどです。)。標準的には150 ~225 単位を用いた卵巣刺激を行うことが推奨されていますが、FSH受容体の遺伝子多型、黄体化ホルモン-β(V LH-β)バリアントなどにより通常刺激で予想外の低反応となることがあります。
その場合は次回の卵巣刺激の際に、ゴナドトロピンの増量・変更(r-LHを追加)から多くの回収卵子数を獲得できる可能性が高くなります。
最初の体外受精治療の前に、十分な卵巣予備能を持つ全ての女性にFSHまたはLH受容体多型のスクリーニングを行うべきかどうかは、どの程度の患者がそれぞれの多型をもつかにより決定されるべきですが現段階では一般的には行われていません。Double stimulation、補助アンドロゲン療法、成長ホルモンの追加もPOSEIDONグループ1同様 オプションとして検討項目となっています。
Double stimulationは8件のtotal 338人の女性を含むシステマティックレビューでは、卵胞期開始卵巣刺激(通常の刺激)と比較して黄体期開始卵巣刺激で回収される卵子の質や量に低下しなかったとされています。現在のところ、二重刺激後の産科および新生児の転帰については、非常に限られたデータしかありませんが、今後、一般的な臨床現場でもとりいれても良いのかもしれません。

私たちの考え 
現在のところ、卵胞期開始卵巣刺激(通常の刺激)と黄体期開始卵巣刺激を行うDouble stimulation を卵巣刺激低反応の患者様に提案することは少ないような気がします。この群では初回回収卵子数が少ないことから次の卵巣刺激でも回収卵子数が急激に増加することは考えづらくOHSSになる可能性が高くないと推測し、患者様にリスク・ベネフィットを説明のうえ、まずはFSHの増量を第一に考えることが患者身体的・金銭的負担を考慮しても好ましいのではないでしょうか。

それでも回収卵子数が増えない場合や受精卵の質が悪い場合は回収卵子数を増やすDouble stimulationの提示、もしくは刺激を変更(回収卵子数にこだわらず質の改善を目指す)も一つの手段かもしれません。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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