若くて卵巣機能が保たれているのに回収卵子が少ない場合は?(論文紹介)

若くて卵巣機能が保たれているのに標準的な卵巣刺激(FSH 150単位を連日)を行い卵子が数多く取れない群はPOSEIDONグループ1に該当します。若い不妊女性(<35歳)で十分な卵巣予備能(AFC≧5、AMH≧1.2 ng/ml)が保たれているのに、9個以下の回収卵子数の場合をさします。
この群は3回まで採卵を繰り返すと累積出生率が66.06-83.87%まで増加することが期待されており、治療を継続することがとても効果的な不妊患者といえます。
ただし、同時に若い女性で卵巣機能が維持されていると、患者も医療従事者も初回でうまくいくだろうとお互い思っているので、ショックが大きすぎて立ち直れないくらい気持ちがおれます。

予期せぬ反応不良いくつかの病態生理学的な原因と対処法が議論されています。
Nikolaos P Polyzos ら.Front Endocrinol (Lausanne). 2019 DOI: 10.3389/fendo.2019.00679.

論文での示唆を念頭に私たちの対策も簡単に記載させていただきます。

①FSH量の増加・LHの付加

ゴナドトロピン治療に関連した卵巣反応不良はFSHR多型(例えば、Ser680AsnおよびThr307Ala)と関連しています。正常な卵巣予備能にもかかわらず反応が不良な場合は、FSH量を増量すると良い結果が得られる可能性もあります。
Ser680(SS)のホモ接合体である女性にFSH225単位を開始用量とした場合、Asn680(AA)/ヘテロ接合体(AS)のホモ接合体である女性にFSH150単位で治療した場合と同様の血清エストラジオールレベルをもたらし、FSH150単位で治療されたSer680(SS)のホモ接合体である女性と比較して有意に高いエストラジオールレベルをもたらすことが報告されています。また、反応不良で4~9個しか回収できない既往がある女性にFSHの開始用量を増量すると、その際の体外受精周期の回収卵子数が増加することもわかっています。
他にも黄体形成ホルモン(LH)のβサブユニット(v-LH)の一般的な変異体は、FSHに対する卵巣反応に影響を与えることが示されている。以前の研究では、LHのこの遺伝的変異を持つ患者は、FSH量を増量することで回収卵子数の増加、また日本では行えませんが遺伝子組み換えLH(rLH)の補充投与も選択肢の一つとなりえます。
rLHを卵巣刺激反応不良女性に追加投与をすると回収卵子数が増加し、高い妊娠率につながった報告もみられます。日本で言うとLH比率が高いHMGに変更するのが打開案であるかもしれません。

≪私たちの考え≫
HMG増量やHMG種類を変えることによる対応は日常的におこなっています。

②DuoStim(double stimulation: ダブルスティミュレーション)

1周期に2回採卵するDuoStimも一つの手段と考えられています。
若い女性は回収卵子数の増加に伴い妊娠率・出産率に寄与するわけなので、DuoStimをすることで効率があがるという考えもあります。ただし、採卵を行う間隔が縮まるだけで、2回目のFSH投与は通常より使用量も増加し期間も長くなるため、患者様の費用負担も増えます。年齢が若いからこそ間隔をあけてでも万全な体制で挑んだほうが良い気もします。
もう少しエビデンスがたまるまで慎重に考慮された方がよいかもしれません。

≪私たちの考え≫
一般不妊の患者においては、患者から強い訴えがない限りDuoStimは積極的におこなっておりません。私たちのデータによって現段階では効率的とは判断していないからです。海外・国内データのアップデートもみながら検討を重ねたいと思っています。

③卵胞サイズを同期化する

卵巣予備能が保たれているのに刺激後の卵胞発育数が少ないのは刺激開始時に既に主席卵胞が決まっていることが起因する可能性もあります。したがって、卵胞サイズを同期化するために前周期ピルなどを用いることも提案されています。ただし、ピルによる卵胞サイズの同期化は発育卵胞数の減少を示唆する論文も多々あることから、早期発育卵胞により回収卵子数が減っているという根拠がない限りは積極的に行うべきではない気もします。

≪私たちの考え≫
数を増やしたい患者に積極的に行ってはいません。それより月経が来る少し前を予測し、そこから刺激するランダムスタートを用いることが多くなっています。この場合は妊娠していないことを確認することが大事です。

④成長ホルモン(GH)やテストステロンを用いた補助療法

卵巣反応の悪い女性の転帰を改善する選択肢として大きな関心を集めておりますが、過去の報告から反応不良患者への使用を支持する論文があるものの、サンプル数も少なく現段階では優先順位が高い治療とはいえません。

≪私たちの考え≫
こちらも以前検討した時期もありますが、現在は実施しておりません。海外・国内データのアップデートもみながら検討を重ねたいと思っています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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