卵巣刺激低反応群(POSEIDON1-4群)での分娩にたどりつく割合(論文紹介)

卵巣刺激して回収卵子数を期待できない人が3回まで体外受精治療を続けたら、どの程度分娩まで到達するのでしょうか。
POSEIDON で層別化した報告をご紹介したいと思います。
POSEIDON 1と2群は、卵巣予備能があるのに、環境汚染物質、遺伝子多型、薬剤などによって卵巣刺激に対する低反応となってしまう女性で、回収卵子数の改善により成績改善につながることが期待されます。POSEIDON 3と4群は卵巣予備能が低いため、回収卵子数・移植廃数が増えず成績不良となっているため体外受精を繰り返せば良い結果につながるのではと考えてしまいます。実際はどうなんでしょうか。

Yuan Liら. Front Endocrinol (Lausanne). 2019.  DOI: 10.3389/fendo.2019.00642.

≪論文紹介≫

2014 年1月から 2017 年 6 月まで中国で体外受精治療を受けた女性 62,749 人(97,388 周期)のうち基準を満たした19,781人(31.52%:26,697周期)を対象とした後方視的研究です。
刺激法はロング法またはアンタゴニスト法(112.5〜300IU:FSH/HMG)で、トリガー35~36 時間後に採卵を実施して新鮮胚移植を行う場合、採卵後 3~5 日目に 3 個以下の胚を移植しています。凍結融解胚移植周期でも同様に3個以下の胚移植としました。保守的出生率とは治療を止めた段階以降の出生率を0として計算した出生率、最適累積出生率は治療を止めた女性も続けていた場合、残りの女性と同等に出生にいたったと仮定した出生率です。

結果:

POSEIDON群1、2、3、および4において、IVF/ICSIの連続3周期における保守的-最適累積出生率はPOSEIDON 1群:66.06-83.87%、POSEIDON2群:37.72-53.67%、POSEIDON 3群:27.98-44.24%、POSEIDON 4群:9.68-14.20%でした。第1刺激周期ではPOSEIDON群による比較では第1群が第2群:オッズ比(OR)=2.319、95%CI:2.131~2.525、P<0.001、第3群:OR=1.356、95%CI:1.005~1.828、P=0. 046、第4群:OR=3.525、95%CI:2.774-4.479、P<0.001に比べて出生率が高く、卵巣刺激ではロング法に比べてアンタゴニスト法:OR = 1.856、95%CI:1.640-2.100、P<0.001、その他の卵巣刺激法:OR = 1.651、95%CI:1.155-2.361、P = 0.006の出生率が高くなりました。
2回目の卵巣刺激周期についてもPOSEIDON群(POSEIDON群3を除く)および卵巣刺激方法は同様の傾向となりました。卵巣刺激方法の変更は出生率の改善とは関連しませんでした。

結論:

体外受精で低反応と呼ばれる女性が中国では体外受精治療をうける30%以上を占めています。4つのPOSEIDON群に層別化すると異なる出生結果が認められました。
体外受精治療を3周期続けて行った結果、続けることが良好な結果がえられたのは第1、第2、第3群となりました。

≪私見≫

「どのような患者にステップアップを勧めるか」とよく質問されますが、適応を満たして患者というのが大前提として、それ以外のパターンとして、1年先に体外受精を選択するより早いうちに体外受精に移行した方が赤ちゃんを授かれる確率が上がるだろうと思う患者様には体外受精を勧めるようにしています。
この論文は、臨床で治療を行っているイメージと完全に一致する解析結果になっています。

  • 卵巣予備能が十分な女性は、予備能が低い女性に比べて体外受精成績が良好
  • 卵巣予備能が同じ場合、若い女性の体外受精成績が良好
  • 体外受精3周期繰り返した時に卵巣予備能が低い35歳以下の女性は35歳以上の卵巣刺激低反応女性と同等の出生率に到達する。
もう一つの卵巣刺激低反応をしめるボローニャ基準で層別化した報告でも体外受精1周期での累積出生率は不良ですが、続けることにより3周期後には全体的な出生率が改善されています(保存的累積出生率:10.5~14.3%、最適累積出生率:10.5~23.7%)。国内では45歳以上、または体外受精5周期での妊活終了を提案することを日本産婦人科学会はすすめていますが、治療を始める前にこのようにお話ししてあげることが好ましいのだと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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