妊娠中のCOVID-19ワクチンのリスク・ベネフィット (2021/1:米国の推奨)
COVID-19感染についてはさまざまな報告が増えてきました。ただ、これから始まるCOVID-19ワクチン(コロナワクチン)の妊婦や妊娠に対する安全性、特に中・長期的な副反応、胎児および出生児への影響については現時点の投与例は少数ですが有害事象は報告されておりません。日本産婦人科感染症学会、日本産科婦人科学会は2021年1月27日に「COVID-19ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する方へ」という文書を公表しています( 新型コロナワクチン接種 妊娠中、妊娠を希望する人が受けてもいいですか?)。
アメリカでも同様の声明が報告されています。日本で掲載されているものとほとんど内容が同等ですが、ご紹介させていただこうと思います。
Stafford IAら. Am J Obstet Gynecol. 2021. DOI: 10.1016/j.ajog.2021.01.022.
①妊娠中のCOVID-19感染
2021年現在、COVID-19と妊娠を評価した1,600件以上の報告が発表されています。435人以上の感染妊婦からの最近の研究では、妊婦におけるCOVID-19の重症度は非妊娠成人と同様であることが報告されています。しかし、ICU入院リスク増加(10.5 vs. 3.9 per 1,000 cases; adjusted risk ratio [aRR]、3.0;95%信頼区間[CI]、2.6-3.4)、人工呼吸器の管理増加(2.9 vs. 1,000例あたり1.1;RR、2.9、95%CI、2.2〜3.8)、死亡率増加(1.5 vs. 1,000例あたり1.2;RR、1.7;95%CI、1.2〜2.4)がみられるという報告もあります。また、COVID-19に感染した女性の血栓塞栓症、妊娠高血圧症候群、早産、帝王切開分娩のリスクは依然として高いようです。国による格差がありますが妊婦は重症感染となるリスクは低いものの、CDCはCOVID-19感染重症化の一因子として妊娠を含めるという考えが一般的です。
新生児の持続感染率はとても低く、垂直感染のリスクは約2〜3%であるとされています。感染妊婦の羊水、臍帯血、または新生児の鼻咽頭サンプルからCOVID-19は日常的には検出されないと考えて良いようです。
感染した母親の母乳からウイルスRNAが検出されたことが報告されていますが、COVID-19陽性の母親の母乳を摂取することで新生児への感染リスクが高めるという根拠はありません。またCOVID-19感染後の母親から母乳を通して胎児へ免疫機能が伝播されるかどうかはわかっていません。
②妊娠中のCOVID-19 ワクチン接種
米国ではACIP(ワクチン接種に関する諮問委員会)は妊婦をワクチン接種から除外するべきではないとしていますが、米国やカナダでは臨床データが乏しいことから妊婦を除外しています。日本では「流行拡大の現状を踏まえて、妊婦をワクチン接種対象から除外することはしない。接種する場合には、長期的な副反応は不明で、胎児および出生児への安全性は確立していないことを接種前に十分に説明する。同意を得た上で接種し、その後30分は院内での経過観察が必要である。器官形成期(妊娠12週まで)は、ワクチン接種を避ける。感染リスクが高い医療従事者、重症化リスクがある可能性がある肥満や糖尿病など基礎疾患を合併している方は、ワクチン接種を考慮する」としています。
ワクチン接種では軽度の副作用が報告されています。注射部位の疼痛は80%を前後、軽度発熱を含む全身性不定愁訴が40%前後という報告もありますが、重篤な副反応はほとんど報告されていません。(アナフィラキシーを含むアレルギー頻度はファイザー製で0.0011%)、器官形成期(妊娠12週まで)の催奇形性は現在のところ証明はされていないようです。ベル麻痺は、ファイザー社とモデナ社の両方のワクチンを受けた患者の中で複数人罹患していますが、ワクチンとの関連はないとされています。
③COVID-19 ワクチン接種を対象とする妊婦
感染リスクが高い医療従事者、重症化リスクがある女性とされていて、十分なインフォームドコンセントを行いながら勧めるべきだとされています。
重症化リスクがある可能性がある女性はどのような女性でしょうか。肥満(BMI>35、kg/m2)、または糖尿病または高血圧性疾患を有する女性は、それらの病的疾患を有しない女性と比較して、人口呼吸器を必要としたり、死亡率が高くなっています。(OR、3.85;[95%CI、2.05-7.21])、4.51;[95%CI、2.10-9.70])、116.1;[95%CI、22.91-588.50])。
④COVID-19 ワクチン接種の胎児・授乳への影響
COVID-19ワクチンの胎児および新生児の安全性を示したヒト試験は現在のところなく、一部の臨床研究で36例の妊娠が含まれていて副反応がでていないことしかわかっていません。
動物発生・生殖毒性(DART)試験では、妊娠前または妊娠中にモデナCOVID-19ワクチンを投与された1,000匹以上のラットにおいて、雌の生殖に関して安全性の懸念はないこととされていて、妊娠率の低下や流産率には影響を与えていないようです。
授乳に関しては、ワクチンに関連するmRNAは初期の母乳研究では検出されておらず、新生児へのリスクは最小限からゼロであるとしています。他のワクチンのように、ワクチンに伴う免疫グロブリンが母乳中を通過し、新生児のCOVID-19感染に対して有効的に働く可能性も十分考えられます。
授乳中の女性に対する安全性は、ワクチンを受けることで新生児への悪影響や授乳に有害な変化をもたらすことはなさそうなため、通常通り行って問題はなさそうです。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。