HMG製剤の1日投与量を多くすると体外受精成績に悪影響を及ぼすの?

1日HMG製剤投与量をどうするかを記載したレビューがでてきました。過去にブログで取り上げた報告が主となり記載されていますが、わかりやすくまとまっていたのでとりあげさせていただきます。

Molly M Quinn, et al. Fertil Steril. 2022 Dec 16;S0015-0282(22)01974-4. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.10.024.

「HMG製剤を多く投与すると卵子にとって有害なの?」という質問に対してですが、結論がでていません。高用量HMG投与が卵胞の機能を低下させてしまい、質のいい卵子もダメにしてしまうのか、通常であれば育たないダメな卵胞も育てて回収してしまうから全体の体外受精成績が悪化したように見えるのかどっちなのでしょうか。
答えはそんなに簡単ではなく、卵巣機能が低下している場合、高齢の場合、肥満度が高い場合などの体外受精予後が悪そうな患者様に、回収卵子数を少しでも増やしたいと思いHMGを大量投与してしまうことが多々ありますのでバイアスが複数あり実際の臨床現場では経験的に理解することは難しい気がします。

より多くの1日HMG製剤投与が好まれる理由ですが、HMG1日投与量が多いほど回収卵子数の増加が見込めるからです。コクランレビュー2018でも報告されています。

では同じ調節卵巣刺激を行うにしても、1日HMG投与増量に反対する根拠はどこにあるのでしょうか。頻繁にあげられるのはOPTIMIST studyとXitong Liuらによって行われた報告です。

●OPTIMIST studyは胞状卵胞数が11個未満の女性に対してHMG 150単位/日から225-450単位/日に増量しても累積出生率が変わらなかったとする報告です。しかし、HMG 150単位/日群は卵胞発育不良で採卵を取りやめた周期が多いので一概に言えないでは?という意見もあります。

●Xitong Liuらによって行われた報告は胞状卵胞数が10個未満の女性に対してHMG 150単/日から225-300単位/日に増量しても累積出生率が変わらなかったとする報告です。しかし、事前の研究設定の際に累積妊娠率に14%に差があるかどうかを有意基準としています。HMG 225-300単位/日群が150単位/日群より累積生児獲得率が7%高くなりましたが、事前設計の基準に到達せず差がないという結論となっていることから、本当に差がないといっていいの?という意見もあります。

他、HMG450単位/日以上での調節卵巣刺激の十分にデザインされたRCTでも、体外受精のためのゴナドトロピン投与量の増加による有害性は証明されていません。HMG 450単位 vs. 600単位のショート法での検討でも、HMG 300単位 vs. 450単位 vs. 600単位のロング法での検討でも体外受精成績に差がありませんでした
(Lefebvre J, et al. Fertil Steril. 2015; 104: 1419-1425. Berkkanoglu M, et al. Fertil Steril. 2010; 94: 662-665)

これらの報告と見ていると、生殖医療者の治療に対する考えによって1日HMG投与量には差があって当然な気がします。基本は調節卵巣刺激を行い、多く卵胞が育ち過ぎた場合は新鮮胚移植の成績低下やOHSSリスクの低減のために全胚凍結が一般的になった現状、迷ったら1日HMG投与量を気持ち多めに投与することに費用対効果を除きネガティブな要素はないように思います。

体外受精の卵巣刺激は患者様によって合う、合わないが個人的にはあると思っています。事前に体外受精方法を話し合う必要があると感じています。ただ、どうしても専門的な解釈が必要になってきてしまうことが多いので、標準的な治療方針から提示することを心がけています。初回の調節卵巣刺激でうまくいかなかった場合は回収卵子が受精状況・胚発生を振り返り治療方針を再度話し合うことにより患者様にとっても満足度が高い治療となるのではないかなと日々感じています。

文責:川井清考(院長)

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