卵巣予備能が低い女性には卵巣刺激のFSH量は増量すべき?(論文紹介)

卵巣予備能の低い女性に対して卵巣刺激のFSH量は増量したら生殖医療成績がよくなるかどうか?というのは臨床的には永遠のテーマです。過去にも卵巣予備能低下患者への卵巣刺激増量は効果があるの?(OPTIMIST study: Part I)で取り上げましたが、FSH増量は臨床成績の改善に寄与しないとされています。今回はGnR Hアンタゴニスト法メインで32歳平均の女性に対してFSH増量群(225-300単位/日)と標準群(150単位/日)での累積生児出産率を比較した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

胞状卵胞数10個未満の女性の初回体外受精周期ではFSHを150単位/日より増量しても、統計的に有意な累積出生数の増加につながりませんでした。

≪論文紹介≫

Xitong Liu, et al. Hum Reprod. 2022. DOI: 10.1093/humrep/deac113

生殖医療施設において、2019年3月から2021年10月にかけて、並行非盲検ランダム化比較試験を実施しました。最初の体外受精周期(AFC<10の43歳未満の女性)を、FSH増量群(AFC1~6:300単位/日、AFC7~9:225単位/日)、標準治療群(150 単位/日) に無作為に割り付けました。主要評価項目は18カ月以内に新鮮胚移植周期、その後の凍結融解胚移植周期を含む最初の体外受精周期あたりの累積生児出産とし、intention-to-treatの観点から評価しました。生児出産とは、妊娠24週以上の1人以上の生児を出産したことと定義しました。最初の体外受精周期に起因する生児出生数の11%の差を検出する症例数を設定しました。
結果:
FSH増量群(n = 328)または標準治療群(n = 333)に無作為に割り付けました。
累積生児出産率はFSH増量群 162/328 (49.4%)、標準治療群 141/333 (42.3%)でした[RR 1.17(95% CI, 0.99-1.38), リスク差 0.07(95% CI, -0.005, 0.15),P = 0.070 ]。FSH増量群vs. 標準治療群の初回胚移植後の生児出産率は125/328(38.1%) vs. 117/333(35.1%)[RR 1.08(95% CI, 0.83-1.33), P = 0.428]。FSH増量群vs. 標準治療群の累積臨床妊娠率は59.1% vs. 57.1%[RR 1.04(95% CI, 0.91-1.18), P = 0.586]、流産率は 9.8% vs. 14.4%[RR 0.68(95% CI, 0.44-1.03), P = 0.069] でした。生化学妊娠、妊娠継続、多胎妊娠、子宮外妊娠などのその他の副次評価項目は、初回胚移植、累積胚移植ともに両群間に有意差はありませんでした。

≪私見≫

女性平均年齢 32歳台、BMI22前後、原発性不妊75%前後の女性に対して、GnRHアンタゴニスト周期メイン(88%)で新鮮胚移植を60%前後実施した場合の初回体外受精の18ヶ月以内の累積生児出産率が今回の論文の内容です。

この論文を見て、どう感じるかは臨床医次第だと思います。EBMに基づきNBMに寄せていく医療という観点からは、このFSH増量群が11%の累積生児出産率の増加には合致しませんでしたが、増量はそれなりに意味があるんじゃないの?と感じてしまいます。
理由としては2つ。1つめはAFC1-6群のサブグループ解析の結果です。
FSH増量群vs. 標準治療群のAFC7-9群の初回移植の生児出産率(37.9% vs. 38.9%、P =0.827)および生児出産率(53.9% vs. 49.3%、P =0.351)に比べ、AFC 1-6群の初回移植の生児出産率(38.5% vs. 29.2%、P=0.122)および累積生児出産率(41.8% vs. 31.5%、P=0.093)です。

2つめはPoor response(卵胞発育不良のキャンセル、もしくは発育卵胞数5個以下)の割合です。FSH増量群vs. 標準治療群 では102 (31.1%) vs. 162 (48.7%)でした。 これらをみると「卵巣予備能が少ない群でのFSH増量は功を奏する人がいるのは確かなのかな?」と感じてしまいます。

文責:川井清考(院長)

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