AGA治療薬であるフィナステリド(プロペシア®)やデュタステリド(ザガーロ®)を飲むと不妊症になるのでしょうか? その2(論文紹介)

不妊症ではない若年の健康な方では、フィナステリド5mg(プロペシア®)やデュタステリド0.5mg(ザガーロ®)の投与によって精子の数や精子の運動性に影響はなさそうです。

≪今回ご紹介する論文≫

「健康な男性における精液検査所見と血清ホルモン値に対するデュタステリドとフィナステリドによる5α-還元阻害の効果」(Amory JK et al. J Clin Endocrinol Metab. 2007. PMID: 17299062)

その1」では、若い健康な男性では、低用量のフィナステリド(1日1mg内服)により、精子が減ったり、精子の動きが悪くなるといった精液所見の異常は起こらないという比較的質の高い前向きの研究を紹介しました。
今回のその2では、前立腺肥大症で用いられる高用量のフィナステリド1日5mgの精液所見に対する影響を調べた論文を紹介します。またこの研究ではフィナステリドよりも強力な作用を有すると考えられるデュタステリド(5α-還元酵素I型およびII型阻害薬)0.5mgの影響も同時に検討しています。デュタステリドも0.1mg錠と0.5mg錠が我が国で使用可能ですが、AGA治療薬として保険収載されていないため自費診療となっています。

論文の要旨:
この研究の目的は、デュタステリドまたはフィナステリド内服により、血中テストステロン値、血中ジヒドロテストステロン値、精子形成がどのように影響を受けるかを検証することです。
研究の方法は、多施設共同で行われた無作為化二重盲検の比較試験で、平均35歳の健常者99名を対象としたものです。これらの方は無作為に、デュタステリド1日0.5mg内服群(33名)、フィナステリド1日5mg内服群(34名)、偽薬(プラセボ、有効成分の入っていないもの)内服群(32名)に割り付けられました。一年間薬剤を内服し、内服開始26週目と52週目および治療終了後24週目に、血中テストステロン値およびジヒドロテストステロン値の測定し、精液検査を実施しました。
結果は、次のようになりました。デュタステリド内服群、フィナステリド内服群では偽薬内服群と比較して、血中のジヒドロテストロン濃度が有意に低下していました。デュタステリドでは94%、フィナステリドでは73%低下していました。また、血中のテストステロン濃度は一時的に上昇していました。精液所見の変化についてですが、デュタステリドおよびフィナステリド内服群では、26週目では有意に総精子数が低下していました(それぞれ、-28.6%および -34.3%)。しかしながら、52週目では、投与前と比較して有意な差がなくなっていました(それぞれ、-24.9%および-16.2%でしたが有意差なしです)。また、投与終了後24週目でも総精子数の変化は投与前と比較して有意な差はありませんでした(それぞれ-23.3%および-6.2%)。内服52週目では、精液量はデュタステリド群では有意に減少していました(それぞれ-29.7%および-14.5%)。精子濃度は減少傾向にあるものの有意な変化はありませんでした(それぞれ-13.2%および-7.4%)。また、デュタステリドおよびフィナステリド投与群では、研究期間を通じて精子運動率が有意に低下しており、6%から12%の低下を認めていました。精子の形態については有意な変化を認めませんでした。
結論として、5α-還元酵素阻害薬であるデュタステリドとフィナステリド内服により血中のジヒドロテストステロンは低下する一方で、精液所見の悪化は一時的であり、薬剤中止後に改善する、としています。

≪筆者の意見≫

この研究では、前立腺肥大症治療で使う通常の用量のデュタステリドとフィナステリド内服により、男性ホルモンの変化と精液所見の変化をみています。この研究も健常者を対象としていますが、精子数が一時的に軽度の低下をきたしたものの、内服継続中に回復し、中止後も元の値を維持していました。一時的に低下したとしても、もとの総精子数が平均で200x106個でしたので、35%低下したとしても基準値(総精子数は39x106個以上がよい)におさまりますので問題にはなりにくいです。一方で精子運動率はどちらの薬剤でも内服中および薬剤中止後24週経過した後でも低下したままでした。治療開始前の精子運動率が平均61%から67%とこちらも良好でしたので、今回の研究で示された12%の低下が起きても基準値(精子運動率は42%以上がよい)におさまりますので、あまり問題になる変化とは言えないようです。以上から、この研究では健常者で精液所見がもともととてもよい方であれば、デュタステリドやフィナステリドを通常量内服しても精液所見が基準値を下回るような悪化は起きにくいという結論になるでしょう。
デュタステリドの添付文書でも全体として精液所見に有意な悪影響がないと記載があります。しかしながら、記載されたデュタステリド1日0.5mg投与27例中2例において、投与52週で精子数が90%低下したこと、投与中止後24週目には改善したとあります。したがって、少なくともデュタステリド(あるいはフィナステリド)内服中で精液所見に異常を認めた場合は中止を検討する必要があると考えられます。
今回ご紹介した論文では男性機能についても検討しています。勃起不全や射精障害は3から6%に発生していますが、偽薬投与群と差はありませんでした。しかしながら、5α-還元酵素阻害薬で起きた勃起不全が薬剤中止後も遷延する場合があることも報告されています(La Torre A et al., Pharmacopsychiatry 2016)。男性機能障害についてもよく理解した上での治療が必要です。
次回は、男性不妊症でフィナステリドを内服していた場合についての論文を紹介いたします。

参考文献
Amory JK, Wang C, Swerdloff RS, Anawalt BD, Matsumoto AM, Bremner WJ, Walker SE, Haberer LJ, Clark RV. The effect of 5alpha-reductase inhibition with dutasteride and finasteride on semen parameters and serum hormones in healthy men. J Clin Endocrinol Metab. 2007 May;92(5):1659-65. doi: 10.1210/jc.2006-2203. PMID: 17299062.

La Torre A, Giupponi G, Duffy D, Conca A, Cai T, Scardigli A. Sexual Dysfunction Related to Drugs: a Critical Review. Part V: α-Blocker and 5-ARI Drugs. Pharmacopsychiatry. 2016 Jan;49(1):3-13. doi: 10.1055/s-0035-1565100. PMID: 26569417.

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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