体外受精1周期と人工授精3周期どっちが有効?(論文紹介)

米国生殖医学会が38歳以上の女性に体外受精を推奨しているのはFORT-T試験(n = 154)に基づいています。この試験では38-42歳の女性において、体外受精2周期は、卵巣刺激を行った人工授精2周期よりも高い生児出産率でした(体外受精 vs. クロミッドを用いた人工授精 vs. ゴナドトロピンを用いた人工授精: 31.4% vs. 13.5% vs. 15.7%)(Goldman MB, et al. Fertil Steril 2014)
体外受精1周期と人工授精3周期の有効性と安全性を比較検討した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

体外受精1周期と人工授精3周期は、累積出産率は女性年齢によって異なります。

  18-34歳 35-37歳
治療法 体外受精 人工授精 体外受精 人工授精
1回 34.1% 14.4% 25.9% 12%
2回まで 行わず 26.6% 行わず 21.7%
3回まで 行わず 32.1% 行わず 25.4%
  38-40歳 41-45歳
治療法 体外受精 人工授精 体外受精 人工授精
1回 18.2% 9.2% 14.4% 3.7%
2回まで 行わず 18.1% 行わず 6.4%
3回まで 行わず 22% 行わず 7.4%

女性年齢で層別化した体外受精1周期vs. 人工授精3周期の推定累積出生率

Yu-Han Chiu, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.02.003.

医療費請求データベース(2011年~2015年)を用いたターゲットトライアルエミュレーションにて、不妊症と診断され過去12ヶ月以内に人工授精または体外受精既往がない18~45歳の女性29,021人を対象としました。
すぐに体外受精1周期を行い、その後4ヶ月以内に体外受精/人工授精を行わない、またはすぐに人工授精1周期行い、その後4ヶ月以内に妊娠しない場合、さらに人工授精を2周期連続して行った場合の生児出産率、多胎率、先天性奇形率、早産率、SGA児率、LGA児率、NIC入室率、妊娠糖尿病率、子癇前症率、妊娠高血圧症候群率を検討しました。
結果:
生児出産確率は体外受精27.3%、人工授精26.3%でした。プロトコールごとのリスク差(95%CI)は、体外受精が人工授精と比較して、生児出産率1.0%(-0.1%、2.2%)、多胎率4.3%(3.7%、4.9%)、早産率3.4%(2.8%、4.0%)、NICU 入室率1.5%(0.9%、2.1%)、妊娠糖尿病率0.6%(0.2、1.0%)となり、それ以外は、プロトコールのリスク差を認めませんでした。40歳以上の女性では,体外受精(14.4%)が人工授精(7.4%)よりも生児出産率が高くなりました。

≪私見≫

この論文では40歳未満では、体外受精1周期と人工授精3周期の有効性と安全性は同等としていますが、人工授精は卵巣刺激を用いた方法であり臨床妊娠率が周期あたり13-15%となっています。これは複数卵胞を発育させて行った人工授精と考えられますので、国内で行っているような単一発育卵胞を目標とした人工授精ではもっと体外受精有利の結果になるような気がします。また面白いのが体外受精不成功ののち、人工授精に移行した場合、体外受精1回不成功でも2回不成功でも人工授精の妊娠率が8%前後担保されることです。
これをみると、体外受精で結果がでない場合は人工授精をトライしてみる価値があるんだと思います。

文責:川井清考(院長)

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