40歳以上の人工授精のレビュー報告(論文紹介)
国内では2022年度より開始した保険適用では人工授精においては年齢制限がかかりませんでした。しかし、40歳以上の女性にとっては人工授精に比べて体外受精の生殖医療成績が高いことはわかっています。様々な理由から40歳以上で人工授精に進むとしても、医療者・患者共にこのことを理解した上で実施すべきだと思います。過去に報告された636件の論文から42件の論文を選び検討したレビュー報告をご紹介致します。
≪ポイント≫
●40歳以上の女性に人工授精を行う価値はあるのか?
妊娠率・生児出産率の観点からだけで言うと人工授精よりも体外受精の成績が良好です。しかし、種々の理由で体外受精に進むことができない女性もいます。それ以外にも卵巣予備能の低下のため、体外受精を念頭に入れて様々な卵巣刺激を行っても、発育卵胞が1-2個しか育たない場合、体外受精結果が諸種の理由で成績不良な場合などは代替的に人工授精を検討する価値はありそうです。
●40歳以上の女性に人工授精を行う場合、どのような調節卵巣刺激がよいのか?
ゴナドトロピン注射が経口排卵誘発薬(クロミッド®やフェマーラ®)より治療成績が有意に向上するという根拠はなさそうです。経口排卵誘発薬が合わない場合を除き、費用の面、多胎リスクの面からもゴナドトロピン注射は推奨されていません。
●40歳以上の女性に人工授精を推奨しない年齢基準はあるか?
43-45歳の女性の妊娠率および出産率が「futility (無益)」(1%未満の成績)の範囲外である、つまり、『周期あたりの臨床妊娠率が1%以上を担保できる』という報告が少数ですがあります。45歳以上の女性では妊娠率および出産率が「futility (無益)」(1%未満の成績)である報告しかありません。45歳以上の女性に人工授精を行うのは、不妊治療を終了する前や、心理的な準備のための代替手段の位置付けと考えられます。
●40歳以上の女性に人工授精は、何周期行うべきか?
ほとんどの報告で1~4周期で妊娠率がプラトーに達するとしています。これは年齢問わず同じような傾向を示します。人工授精を行う場合4周期まで検討する価値がありそうです。
●40歳以上の女性の場合、人工授精で妊娠しやすい人はどのような人ですか。
データが限られていて、一貫する方向性はでていません。
現在のところ、排卵障害の有無、月経期のFSH値、卵巣刺激方法などで成績を比較した論文がありますが、成績差はないですし、全て小規模研究なので結果も再現性が不明であるとされています。
≪論文紹介≫
Carleigh B Nesbit, et al. J Assist Reprod Genet. 2022. DOI: 10.1007/s10815-022-02551-8
PubMedとGoogle Scholarを用い、PRISMAガイドラインに従ってシステマティックレビューを実施しました。主要評価項目は生児出産率、副次評価項目は臨床妊娠率としました。
結果:
636件の研究がスクリーニングされ、そのうち42件が含まれました。パートナー精子の生児出産率を示した8件の研究では、生児出産率/周期は0~8.5%であり、大多数は4%以下でした。ドナー精子の生児出産率を示した4件の研究では、生児出産率/周期は3~7%であり、6周期の累積生児出産率は12~24%でした。妊娠の大部分は最初の6周期で起こりました。43歳以上の女性で生児出産率または臨床妊娠率/周期が1%以上であった研究は3件でした。45歳以上の女性でこの範囲以上のデータを提供している研究はありませんでした。刺激方法による治療成績を比較した7件の研究では、有意差は認められませんでした。
結論:
40歳以上の女性では体外受精が生児出産の確率を上げるためには好ましいですが、体外受精に様々な理由で進まない場合、人工授精を行う場合4周期(海外ではドナー精子を使う場合6周期)まで検討する価値がありそうです。45歳以上の女性では、人工授精は「futility (無益)」(1%未満の成績)である可能性が高いですが、治療終診までの心理的な準備のために行うことも選択肢に入るのかもしれません。ゴナドトロピン使用は経口剤よりも有効性はなさそうです。
文責:川井清考(院長)
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