卵巣予備能低下患者への卵巣刺激増量は効果があるの?(OPTIMIST study: Part I)(論文紹介)

体外受精または顕微授精を予定している、卵巣の反応が悪いことが予想される胞状卵胞数(AFC)が低い女性の累積出生率は、FSH 投与量を増やすことで高くなるのでしょうか?体外受精/顕微授精を予定している女性の場合、卵巣予備能をみて卵巣刺激に対する卵巣の反応を予測して治療法を決定していきます。FSH(rFSHやHMG)開始用量はしばしば卵巣予備能に基づいて調整され、それが出生率を向上させると考えられていますが今までのランダム化比較試験では優位性をしめせたものは見当たりません。今回紹介するOPTIMIST studyは最近のFSH調整プロトコールの論文の主要な1本ですのでご紹介いたします。

Theodora C van Tilborgら. Hum Reprod. 2017. DOI 10.1093/humrep/dex318.

≪論文紹介≫

2011年5月から2014年5月に、AFC < 11(オランダのトライアル登録NTR2657)の体外受精を希望される女性を対象としたオープンラベルの多施設ランダム化比較試験を実施しました。主要評価項目は、無作為化後18ヵ月以内に達成された進行中の妊娠(妊娠方法は問わず)としました。AFC≦7の対象患者は450 IU/日または150 IU/日のFSH用量に無作為に割り付けられ、AFC 8-10の対象患者は225 IUまたは150 IU/日に無作為に割り付けられました。標準群では、事前に指定された基準に基づいて、その後のサイクルで投与量の調整(50単位前後)が認められた。これらの戦略の有効性と費用対効果は、intention-to-treatの観点から評価されました。

結果:

合計511人の女性が無作為に割り付けられ、AFC≦7の対象患者は234人、AFC 8-10の対象患者は277人でした。増量投与と標準投与の累積出産率はそれぞれ42.4%(106/250)対44.8%(117/261)でした[相対リスク(RR):0.95(95%CI、0.78-1.15)、P = 0.58]。投与量の増加戦略はより治療費が高額であったため[デルタコスト/女性:1099ユーロ(95%CI、562-1591)]、標準的なFSH投与が我々の経済分析では効果的であると考えられました。
この治療の限界として①AFCの検査実施者のばらつき、②標準治療での発育不良での治療中断患者がいたことで累積結果に影響を与えた可能性 が考えられます。

結論:

卵巣予備能が低下している患者(AFC < 11)では150 IU/日の標準的な用量を使用したロング法・アンタゴニスト法が225/450 IU/日の増量プロトコールと累積出産率は変わらず、費用対効果がよいことから患者に情報提供する必要があります。

≪私見≫

このOPTIMIST studyはESHREの提唱するボローニャ基準(Ferraretti ら. 2011)が出る前に組まれた研究です。さまざまな尺度からの前向き研究があることは、私たちの論文の解釈や臨床現場での応用に役立つので、これはこれで良いことだと思っています。もうひとつ、中国のグループがPOSEIDON studyという研究を組んでいるので、また別途ご紹介させていただきます。

彼らも指摘していますが、この論文のバイアスがあるとするとキャンセル率です。たしかに初回の採卵ではITT解析(キャンセルもふくめた出生率)とPer protocol解析(キャンセルなどの除いた出生率)では差がありませんでしたが、初回キャンセルした人は2、3、4回目の治療には参加しないでしょうから、そう考えると150単位が結果として成績が良く見える可能性が否定できないかもしれません。患者様の気持ちを考えると150 IU/日の標準的な用量を使用したロング法・アンタゴニスト法で途中中断が23.5%、225/450 IU/日の増量プロトコールの途中中断が7.6%なら初回費用が少しかかろうとも、FSHを増量して治療に当たってあげたい気もします。EBM(Evidence Based Medicine:科学的根拠(エビデンス)に基づく医療)/NBM(Narrative Based Medicine:物語と対話に基づく医療)は比較され、ブログやSNSでどっちが正しいんだというやりとりがありますが、不妊治療はEBMに基づきNBMによせていく医療なんだと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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